ピョートル・チャーダーエフ

ピョートル・チャーダーエフの生涯と思想

ピョートル・ヤコヴレヴィチ・チャーダーエフ（1794年6月7日 - 1856年4月26日）は、19世紀ロシアの貴族であり、哲学者です。母方の祖父に歴史家のミハイル・シチェルバトフを持つ、名門貴族の家系に生まれました。

生い立ちと軍歴

モスクワの古い貴族の家系に生まれたチャーダーエフは、幼くして両親を亡くし、孤児となりました。その後は兄とともに母方の叔母の家で養育され、叔父のD・M・シチェルバートフから教育を受けました。1807年から1811年にかけてモスクワ大学で学び、グリボエードフやデカブリストとなるN・I・トゥルゲーネフ、I・D・ヤクーシキンらと親交を深めました。

1812年には、叔父が勤務するセミョーノフスキー近衛連隊に入隊し、ナポレオン戦争に従軍しました。ボロジノの戦いをはじめ、ヨーロッパ各地を転戦し、その功績から聖アンナ勲章やプロイセンのクルム十字章を受章しました。1816年にはツァールスコエセローに駐屯し、歴史家のカラムジンや詩人のプーシキンと親交を深めました。しかし、1820年のセミョーノフスキー連隊反乱事件を機に、軍務を退きました。

知的探求と『哲学書簡』

1823年から1826年までヨーロッパ各地を遊学し、帰国後はモスクワに居を構えました。デカブリストの乱が鎮圧され、ニコライ1世による厳重な警戒と抑圧的な検閲制度が敷かれる中、チャーダーエフは以前から抱いていた歴史哲学を発表することを決意しました。1829年にE・D・パンコヴァに宛てた「哲学書簡」でその思想を展開し、1836年に『望遠鏡』誌に掲載しました。

『哲学書簡』は大きな反響を呼びましたが、その内容はロシアの現状に対する絶望や悲観主義、農奴制やロシア正教への批判を含んでおり、ニコライ1世の怒りを買いました。皇帝は『望遠鏡』誌を廃刊させ、『哲学書簡』を禁書としただけでなく、チャーダーエフを狂人と宣告しました。執筆を禁じられ、医師による毎週の診察と監視下に置かれましたが、その一方で、知的自由のための殉教者としての名声は広まり、ロシア内外から多くの人々が彼のサロンを訪れるようになりました。1837年には、自らの立場を弁護する「ある狂人の弁明」を執筆しました。

思想と影響

チャーダーエフの思想は、西欧滞在中に触れたジョゼフ・ド・メーストル、ボナール、シェリングらの哲学に影響を受けています。特に、ローマ・カトリックの普遍主義とその歴史における役割に感銘を受けました。彼はデカブリストの友人たちが処刑・投獄された後のロシアの現状や歴史を顧みて、ロシア人が大種族に属さず、西欧にも東洋にも属さない、過去は暗黒で、文化は模倣の産物であると考えました。ロシアは蒙昧で時間外に立ち、他の人類に教訓を与えるためにのみ存在するとまで述べています。

彼はキリスト教の歴史性を主張し、「天国への道は祖国を通らず、真理を通っていく」と述べました。また、「私はピョートル大帝が教えてくれた流儀で祖国を愛する」と宣言し、ゲルツェンからは「神秘家に転向したデカブリスト」と評されました。彼の思想はウラジーミル・ソロヴィヨフに受け継がれ、発展させられました。

チャーダーエフにとって、ロシアの過去における無能さや歴史における偉大さの欠如は、ロシアの未来の可能性や潜在能力を保証するものでした。この逆転の発想や、ロシアの神秘的な使命への信念は、スラヴ主義者やナロードニキのような社会主義者にさえ受け継がれました。

彼はフリーメイソンロッジ「les Amis réunis」に加入していましたが、その神秘主義的な傾向に馴染めず、間もなく退会しました。その理由を「誠実にして思慮深い、人を満足させるような力強いものを何一つ含んでいなかった」と述べています。

死と遺産

政治的反対者からも尊敬される独立した思想家であり、誇り高い反抗者としての姿勢を崩さなかったチャーダーエフは、当時のロシアでは為すところなく世を去りました。友人のプーシキンは、彼を「ローマに生まれていればブルータス、アテネならペリクレス」と惜しみ、2つの詩を捧げています。18歳年下のアレクサンドル・ゲルツェンは、1840年からチャーダーエフと親しくなり、1851年に発表した『ロシアにおける革命思想の発達について』でチャーダーエフへの情熱的な賞賛を表明しました。

チャーダーエフの思想は、その後のロシア思想に大きな影響を与え、特にロシアのアイデンティティや歴史観を巡る議論において、重要な位置を占めています。

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