ピレモンとバウキスのいる風景

『ピレモンとバウキスのいる風景』は、フランドル・バロックの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスによる油彩画です。オーク板に描かれたこの作品は、ルーベンスの死後、1640年の財産目録に記録され、1659年にレオポルト・ヴィルヘルム大公のコレクションに加わりました。現在は、ウィーンの美術史美術館に所蔵されています。制作年代については諸説ありますが、美術史美術館では1625年頃と推定しています。

この絵画の主題は、オウィディウスの『変身物語』に登場するピレモンとバウキスの物語に基づいています。物語では、ユーピテル（ジュピター）とメルクリウス（マーキュリー）が旅人に姿を変えてフリュギアを訪れますが、人々は冷たく彼らを迎えました。しかし、貧しいながらも親切な夫婦ピレモンとバウキスは、神々を温かくもてなしました。そのお礼として、神々は夫婦を山へ避難させ、その後、大洪水を起こしてフリュギアの人々を滅ぼします。

ルーベンスは当初、縦100センチ、横154センチの嵐の風景を描いていましたが、制作途中で板を継ぎ足し、ピレモンとバウキスの物語を導入しました。ピレモンとバウキスが神々をもてなす場面は16世紀以降にも描かれていましたが、洪水を描いたのは本作が初めてです。

この作品の真の主題は、人間の存在を圧倒する自然の破壊力です。画面には、重く垂れ込めた空から湧き上がる雲、洪水の激しい流れ、そして溺れる人々が描かれています。右端には、左からバウキス、ピレモン、メルクリウス、ユーピテルが描かれており、ユーピテルのポーズは、古代彫刻『ベルヴェデーレのアポロン』を参考にしています。ルーベンスは、自然の力と神々の怒りをドラマチックに表現することで、バロック絵画の傑作を生み出しました。

参考文献

『ウイーン美術史美術館 絵画』、スカラ・ブックス、1997年　ISBN 3-406-42177-6
山崎正和・高橋裕子『カンヴァス世界の大画家13　ルーベンス』、中央公論社、1982年刊行　ISBN 978-4-12-401903-2
Hermann Bauer: El Barroco en los Países Bajos, en Los maestros de la pintura occidental, Taschen, 2005, p. 290, ISBN 3-8228-4744-5

外部リンク

美術史美術館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『ピレモンとバウキスのいる風景』 (英語)

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