ピロー砦の戦い

ピロー砦の戦い：虐殺の真実

ピロー砦の戦いは、南北戦争中の1864年4月12日に、テネシー州ヘニングのミシシッピ川沿いにあるピロー砦で起こった戦闘です。この戦闘は、特に降伏したアフリカ系アメリカ人兵士に対する虐殺があったかどうかで大きな議論を呼びました。軍事歴史家のデイビッド・J・アイヒャーは、この戦いを「アメリカの軍事史上最も暗く悲しい出来事の一つ」と結論付けています。

背景

ピロー砦はテネシー州メンフィスの北約64kmに位置し、1862年に南軍のギデオン・ジョンソン・ピロー将軍によって建設されました。当初は両軍が使用していましたが、1862年6月に南軍が放棄し、北軍が占拠しました。北軍は、メンフィスへの河川からの侵入を防ぐための防御拠点として砦を利用しました。砦は高い崖の上に位置し、3重の塹壕線で守られていました。しかし、実際に戦闘が始まると、胸壁の構造が不利であることが判明しました。また、砦に配備されていた大砲も、敵が接近すると有効に機能しないことが分かりました。北軍は、ジェイムズ・マーシャル艦長が指揮する砲艦USSニューエラも防衛に利用していました。

1864年3月16日、南軍のネイサン・ベッドフォード・フォレスト少将は、約7,000名の騎兵を率いて西テネシーとケンタッキー州への襲撃を開始しました。その目的は、北軍の捕虜や物資を奪取し、パデューカの前哨基地を破壊することでした。フォレストの騎兵軍団は2個師団で構成され、ジェイムズ・R・チャルマーズ准将とエイブラハム・ビュフォード准将がそれぞれ指揮していました。

この遠征中に、3月25日のパデューカの戦いなど、いくつかの重要な戦闘が行われました。フォレストは補給物資を必要としており、約1,500から2,500名の騎兵と共にピロー砦へ向かう作戦を立てました。当時、ピロー砦には約600名の北軍兵が駐屯しており、そのほぼ半数がアフリカ系アメリカ人でした。アフリカ系アメリカ人兵は、第2アメリカ有色人種軽砲兵隊と第6アメリカ有色人種重砲兵隊に所属し、ライオネル・H・ブース少佐が指揮を執っていました。白人兵は、ウィリアム・F・ブラッドフォード少佐が指揮する第13テネシー騎兵隊の部隊が中心でした。

戦闘

1864年4月12日午前10時、フォレストはピロー砦に到着しました。この時までに、チャルマーズはすでに砦を包囲していました。流れ弾がフォレストの馬を直撃し、フォレストは負傷しました。フォレストは砦を見下ろす高台に狙撃兵を配置し、守備隊に直接攻撃を加えました。ブース少佐は狙撃兵の銃弾を受けて戦死し、ブラッドフォード少佐が指揮を引き継ぎました。午前11時までに、南軍は砦の南端から約135mにある兵舎を占拠し、北軍守備隊はそこから激しい攻撃を受けることになりました。

午後3時半まで、ライフル銃と大砲による激しい銃撃戦が続きました。フォレストは、降伏を要求する書簡を砦に送りました。しかし、ブラッドフォードは1時間の猶予を求め、フォレストは20分しか与えないと返答しました。ブラッドフォードは最終的に降伏を拒否し、フォレストは突撃を開始しました。

南軍の攻撃は猛烈でした。狙撃兵が砦への銃撃を続ける中、南軍兵は塹壕を越え、胸壁に到達しました。その後、守備隊は短時間で崩壊し、崖の下にある上陸地点に逃げ始めました。しかし、そこでは砲艦は砲門を閉じており、援護射撃は行われず、逃げる兵士たちは南軍の銃撃によって多数が倒されました。

虐殺

戦闘後の午後4時から夕暮れまでに起こったことについては、多くの議論がなされました。北軍側の記録では、南軍が降伏した北軍兵を冷酷に虐殺したと主張しています。生き残った兵士たちの証言によれば、多くが降伏し武器を捨てたにもかかわらず、南軍兵に銃撃されたり、銃剣で刺されたりしたとされています。連合国議会合同戦争遂行委員会は調査を行い、南軍が降伏後の守備隊の大部分を銃撃したという結論を出しました。アルバート・キャステルの研究でも、ピロー砦の守備隊は「抵抗を停止した後」に無差別に虐殺されたと結論付けられています。

一方、南軍側は、北軍兵が逃走中も武器を所持し、しばしば振り返って射撃したため、やむを得ず自己防衛のために発砲したと主張しています。また、北軍の軍旗がまだ砦に翻っていたことから、部隊が正式に降伏していなかったと主張しました。

戦闘の後

南軍の損失は戦死14名、負傷86名と比較的少なかったのに対し、北軍は多数の死傷者を出しました。砦にいた約600名のうち、約300名が戦死したと報告されています。特に、アフリカ系アメリカ人兵士の損失が大きく、捕虜となったのは約20%に過ぎず、白人兵士の約60%が捕虜になったのと対照的でした。南軍はピロー砦から撤退し、この戦いの結果は北軍の士気を高め、戦争継続への決意を固めさせました。

ピロー砦の虐殺後、エイブラハム・リンカーン大統領は南軍に対し、捕獲した北軍の黒人兵を戦争捕虜として扱うよう要求しましたが、南軍はこの要求を拒否し、捕虜交換も停止されました。

現在、ピロー砦は州立公園として保存されており、1974年に国定歴史史跡に登録されました。また、この戦いは様々な大衆文化にも影響を与え、小説や映画の題材にもなっています。

まとめ

ピロー砦の戦いは、南北戦争における悲劇的な出来事の一つであり、特に降伏したアフリカ系アメリカ人兵士に対する虐殺疑惑が大きな議論を呼びました。この戦いの史実は、今日まで多くの議論や研究の対象となっており、歴史の中で重要な教訓として語り継がれています。

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