ピンクウォッシング (LGBT)

ピンクウォッシング：LGBTQ+を隠れ蓑とした策略

ピンクウォッシングとは、企業や政府などが、LGBTQ+（レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア）の人々への支援を装いながら、実際は全く関係のない政策や商品を宣伝する行為です。同性愛者のシンボルカラーである「ピンク」と、「粉飾する」という意味の「whitewash」を組み合わせた造語で、問題のある行為や政策から人々の目をそらすために利用されます。

ピンクウォッシングの背景：ホモナショナリズムとホモノーマティヴィティ

ピンクウォッシングの背景には、複雑な社会構造が潜んでいます。その一つが「ホモナショナリズム」です。これは、自国をLGBTQ+に寛容な進歩的な社会として宣伝し、他国（特にイスラム社会）を非難することで、自国の政策や戦争などを正当化しようとする動きです。ジャスビア・プアーは、このホモナショナリズムこそがピンクウォッシングを生み出す土壌だと指摘しています。

もう一つの背景は「ホモノーマティヴィティ」です。リサ・ドゥガンが提唱したこの概念は、多様なジェンダーやセクシュアリティを持つLGBTQ+運動の中で、特定のグループ（白人、中流階級以上、男性など）だけが市場で都合よく利用され、結果としてコミュニティ内部に新たな格差を生み出している現象を批判的に捉えたものです。

イスラエル政府によるピンクウォッシング：パレスチナ問題との関連

イスラエル政府は、長年にわたりピンクウォッシングを積極的に行ってきたと批判されています。LGBTQ+フレンドリーなイメージを積極的に発信し、観光客誘致や投資促進、そして「民主主義国家」というイメージの構築に利用しているのです。しかし、イスラエル国内におけるLGBTQ+の人々への差別や、パレスチナにおける人権問題を無視した宣伝であるとして、多くの批判を受けています。

サラ・シュルマンやジャスビア・プアーなどの学者・批評家は、イスラエル政府が国内のLGBTQ+権利とパレスチナの人権問題を天秤にかけていると指摘しています。エルサレムでのワールドプライド開催なども、グローバルな視点から「ゲイフレンドリー＝近代的、民主的」という印象操作の例として挙げられています。

イスラエル政府は、これらの批判に対し、LGBTQ+コミュニティへの包摂政策がパレスチナ占領の正当化に利用された事実はないと反論しています。しかし、国内での同性婚の非承認や、性的少数者へのヘイトクライム発生といった現実も無視できません。

イスラエル政府によるピンクウォッシングの具体例

イスラエル政府は、国際的な広報活動にLGBTQ+の権利擁護を積極的に利用してきました。テルアビブでの国際ゲイ・レズビアン観光協会会議開催、Facebookへの男性兵士のツーショット掲載などがその例です。日本においても、イスラエル大使館はレインボープライドへの後援やゲイカルチャー支援などを行い、観光プロモーションに利用しています。しかし、こうした活動は英語での情報発信が中心で、国内の性的少数者への情報提供は不十分であるとの批判もあります。

その他の国々におけるピンクウォッシング

アメリカ合衆国では、企業によるプライド商品販売や、政府による政策の粉飾が問題視されています。オバマ政権が、移民問題や人権侵害問題から注意を逸らすためにピンクウォッシングを行っていたとの指摘もあります。また、企業によるLGBTQ+イベント開催なども、環境問題や人権問題を隠蔽するための手段として批判されています。

カナダでは、政府によるターゲットメールがピンクウォッシングとして非難された事例があります。ヨーロッパでは、フランスの極右政党がLGBTQ+の票獲得にピンクウォッシングを利用したと報道されています。

日本でも、東京レインボープライドへの企業協賛において、同性パートナーを配偶者として認めていない企業への抗議活動が発生し、ピンクウォッシングへの批判が高まっています。

アンチ・ピンクウォッシング運動

アンチ・ピンクウォッシング運動は、ピンクウォッシングへの抵抗として、LGBTQ+権利運動とパレスチナ人権運動の両方を考慮した運動です。単なる批判にとどまらず、ホモナショナリズムや植民地主義の問題にも目を向け、より包括的な視点からの運動展開が求められています。

まとめ

ピンクウォッシングは、表面的なLGBTQ+への支援を装って、別の目的を達成しようとする策略です。様々な国や組織で問題となっており、その背景には複雑な社会構造や政治的思惑が隠されています。真のLGBTQ+権利擁護のためには、ピンクウォッシングを見抜き、批判し、より包括的な運動を展開していくことが重要です。

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