ピンスクリーンアニメーション

ピンスクリーンアニメーションとは

ピンスクリーンアニメーションは、特殊な装置「ピンスクリーン」を用いて制作されるアニメーション技法です。この技法は、フランス人のアレクサンドル・アレクセイエフと妻クレア・パーカーによって開発されました。光と影を利用し、独特なテクスチャと深みのある映像表現を生み出すことができます。

ピンスクリーン

ピンスクリーンとは、板に無数の小さな穴が開けられ、そこに数十万本ものピンが差し込まれた白いスクリーンのことです。横から光を当てると、各ピンに影ができ、ピンの出し入れによって影の濃淡を調整することで絵を表現します。ピンは簡単に動かないようにある程度の抵抗力があり、意図しないズレを防いでいます。ピンの抵抗力は、ピンスクリーンの調整によって異なります。

制作方法

1. 照明: ピンスクリーンに斜め横から照明光を当てます。これにより、ピンの影がスクリーン全体に落ちます。
2. ピンの操作: ピンの差し込みの長さを変えることで影の濃淡を調整します。ピンを押し出すと画面が暗くなり、押し込むと明るくなります。物体を押し付けてピンを出し入れすることもあります。
3. 撮影: ピンの操作によってできた画像を一枚ずつ撮影し、それを繋ぎ合わせてアニメーションにします。

仕上がり

ピンスクリーンアニメーションは、光と影のみで表現されるため、モノクロームの映像となります。出来上がったアニメーションは、まるで木炭画が動いているかのような独特の質感を持つのが特徴です。従来のセルアニメーションなどでは実現が難しい、テクスチャ効果を持った映像を作り出すことができます。

発明者

ピンスクリーンアニメーションの技術は、フランス人のアレクサンドル・アレクセイエフとその妻クレア・パーカーによって開発されました。クレア・パーカーは、この技法がセルアニメーションの平板的な表現から脱却し、キアロスクーロ（明暗法）や影の効果を活用して、より劇的で詩的なアニメーション映画を制作することを可能にしたと語っています。

彼らは1932年から1935年の間にパリのスタジオでピンスクリーンを開発し、特許を取得しました。その後、50年間で合計6本の短編映画を制作しました。作品は、デバイスの操作が難しく、影で絵を作る性質上、モノクロであるという特徴があります。

アレクセイエフとパーカーが最初に作ったピンスクリーンには、100万本以上のピンが使われていました。現在、このピンスクリーンはパリ近郊の国立映画映像センターに保管されています。一方、カナダ国立映画庁にあるピンスクリーンには24万本のピンがあります。ピンは、専用のツールやピンのグループ、時にはスプーンやフォークといった身近な道具を使って押し出されます。ピンは非常に薄いため、個別に動かすことは難しく、まとめて動かすことで影の密度を調整します。フレームは一枚ずつ作成され、それぞれのフレームは前のフレームからの微調整です。各フレームを撮影し、繋ぎ合わせることで滑らかなアニメーションが生まれます。

カナダ国立映画庁（NFB）との関わり

カナダ国立映画庁（NFB）はピンスクリーンアニメーションの開発には直接関与していませんが、アレクセイエフとパーカーが制作したピンスクリーンの1つを購入しました。1972年には、アレクセイエフとパーカーがNFBを訪れ、アニメーターグループにピンスクリーンを実演しました。このデモンストレーションは撮影され、後にNFBによって「ピンスクリーン」として公開されました。この映像は、「ピンスクリーンテスト」と共にDVDコレクションに収録されており、キャロライン・リーフなどのアニメーターがピンスクリーンを使った実験を行う様子を見ることができます。

ピンスクリーンアニメーター

日本人のピンスクリーンアニメーターは確認されていません。

ジャック・ドゥルーアン: 2005年までNFBでピンスクリーンアニメーションに携わっていました。彼の代表作には、1976年の映画「Mindscape / Lepaysagiste」があります。
ミシェル・レミュー: 2012年の映画「Here and the Great Elsewhere」でNFBの支援を受けピンスクリーンを使用しました。2015年には、アレクセイエフとパーカーが1977年に制作した最後のピンスクリーン「エピネット」が復元され、レミューの指導のもと、若いアーティストのトレーニングに使われました。フランスのアニメーター、ジャスティン・ヴィルステカーもこのトレーニングに参加し、短編映画「Embraced」を完成させました。

その他

垂直3次元画像スクリーンのおもちゃである「ピンアート」は、ピンスクリーンボードの手法に触発されて開発されました。しかし、ピンアートは、自由に動く釘で画像を作るのに対し、ピンスクリーンは影を利用して画像を生成するため、両者は異なります。ピンスクリーンは影を落とすことで初めてピンスクリーンとなるのです。

ピンスクリーンアニメーションは、制作に時間と手間がかかるため、あまり人気のある技法ではありません。また、多数のピンを使用するためコストも高くなりがちです。

ピンスクリーン技法の有名な使用例としては、オーソン・ウェルズ監督の映画「審判」（1962年）の冒頭シーンがあります。この映画では、ピンスクリーンによる印象的な映像が使われています。

デジタルピンスクリーンアニメーション

物理的なピンスクリーンを使用したアニメーションはコストと手間がかかるため、コンピュータプログラムでピンスクリーンの画像をシミュレーションする試みがなされています。デジタルピンスクリーンアニメーションの利点は、過去の画像を復元しやすい点です。従来のピンスクリーンでは、一度作成した画像を正確に再現するのは困難でしたが、デジタル技術を使用することで、同じ画像を再利用し、加工することが可能になりました。

参考文献

津堅 信之『新版 アニメーション学入門』平凡社〈平凡社新書836〉

外部リンク

カナダ国立映画庁–ピンスクリーンアニメーション技術の概要
NFB.caでMindscapeとHereand the GreatElsewhereの予告編を見る
Pedro FariaLopesによるデジタル画像時代のピンスクリーン
アニメーションに関するエンカルタの記事
YouTubeのアレクサンドル・アレクセイエフによるピンスクリーンアニメーション

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