ファイバー (コンピュータ)

ファイバーとは

ファイバーは、計算機科学において非常に軽量な実行スレッドを指します。スレッドと同様にアドレス空間を共有しますが、動作原理には大きな違いがあります。スレッドがオペレーティングシステムのスケジューラによってプリエンプティブに実行されるのに対し、ファイバーは自ら処理を中断し、他のファイバーに実行を譲ることで協調的なマルチタスクを実現します。

ファイバーとコルーチン

ファイバーはコルーチンと密接な関係にあり、本質的には同じ概念として捉えることができます。主な違いは、コルーチンがプログラミング言語レベルの概念であり、制御の流れの一種であるのに対し、ファイバーはよりシステムレベルの構造であるという点です。ファイバーはコルーチンの実装基盤とみなすこともでき、両者は非常に近い存在と言えます。

利点と欠点

利点

スレッドセーフ: ファイバーは協調的なマルチタスクであるため、スレッドのようにプリエンプティブに中断されることが少なく、スレッドセーフの問題が起こりにくいです。
同期機構の省略: ファイバー同士が協調して処理を切り替えるため、スピンロックなどの同期機構やアトミック操作が不要になる場合があります。

欠点

ノンブロッキングI/O: ファイバーを使用する際には、ノンブロッキングI/Oを行うライブラリが暗黙のうちに処理を譲ることが多いため、注意深くドキュメントを熟読する必要があります。
マルチプロセッシング: ファイバーはプリエンプティブなスレッドを使用しない限り、マルチプロセッシングの恩恵を受けることができません。ただし、N:Mスレッドモデルを用いることで、純粋なファイバーやプリエンプティブスレッドよりも効率的な処理が可能になる場合があります。

オペレーティングシステムのサポート

ファイバーはスレッドと比較して、オペレーティングシステムのサポートが少なくても実現できます。Unix系システムでは、`ucontext.h`で定義された`getcontext`, `setcontext`, `swapcontext`関数を用いることで実装可能です。Microsoft Windowsでは、`ConvertThreadToFiber()`や`CreateFiber()`といったAPI関数を用いて作成できます。また、ファイバーローカルストレージを使用することで、スレッドローカルストレージと同様に、ファイバー固有の変数のコピーを作成できます。

JavaScriptにおけるファイバー

JavaScriptは元々シングルスレッドで動作するように設計されていましたが、HTML5以降では、Web Workersというアドレス空間を共有しない並行処理機構が導入されました。Node.jsでは、`fibers`パッケージを通じて、アドレス空間を共有し、協調マルチタスクを実現するファイバーが利用可能です。

まとめ

ファイバーは、軽量で効率的な並行処理を実現するための強力なツールです。スレッドと比較して、より柔軟な制御が可能であり、特にI/O待ちが多いアプリケーションに適しています。しかし、プリエンプティブなスレッドと組み合わせて使用することで、その効果を最大限に引き出すことができます。ファイバーを理解し、適切に利用することで、より効率的で応答性の高いアプリケーションを開発することが可能になります。

関連情報

Getcontext (英語)
グリーンスレッド
スレッド (コンピュータ)

外部リンク

GNU Portable threads
* Portable Coroutines

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