ファイブ・ポインツ (マンハッタン)

ファイブ・ポインツ：ニューヨークの悪名高きスラム街の興亡

ファイブ・ポインツは、19世紀のニューヨーク市ロウアー・マンハッタンに存在した地区であり、その名は交差する通りが生み出す五つの角に由来します。この地区は、かつてコレクト・ポンドという淡水池を埋め立てて造成されましたが、不衛生な環境と犯罪の多発により、国際的に悪名高いスラムとして知られるようになりました。

ファイブ・ポインツの誕生と発展

コレクト・ポンドの埋め立て

元々、コレクト・ポンドはマンハッタンの主要な水源でしたが、周辺の事業所からの排水により汚染が進み、埋め立てられることになりました。しかし、埋め立て工事は杜撰であり、地盤沈下や排水不良が発生し、不衛生な環境が生まれました。

スラムの形成

埋め立て後、中産階級向けの住宅が建設されましたが、環境の悪化により彼らはこの地を離れ、1820年代初頭から貧しい移民たちが流入し始めました。特に、1840年代にはアイルランド大飢饉から逃れてきたカトリック教徒が大量に流入し、ファイブ・ポインツは人口過密のスラムへと変貌しました。

ファイブ・ポインツの実態

人口構成と人種間の関係

ファイブ・ポインツには、解放された黒人やアイルランド系移民など、多様な人々が居住していました。黒人と白人が同じ地域に住むことは当時としては珍しく、アメリカの「人種のるつぼ」の原型とも言えます。しかし、両者の間には緊張も存在し、暴動も発生しました。

犯罪と暴力

ファイブ・ポインツは、当時世界で最も殺人発生率が高い場所の一つと言われていました。ギャングが跋扈し、日常的に暴力事件が発生していました。特に、オールド・ブルワリーという建物は、殺人事件が頻発する悪名高い場所として知られていました。

伝染病の蔓延

不衛生な環境と人口過密により、コレラ、結核、チフスなどの伝染病が蔓延しました。医療体制も不十分であり、多くの人々が命を落としました。

社会改革と再開発

慈善活動

キリスト教団体などが、ファイブ・ポインツの貧困層を支援するための活動を行いました。教会を設立したり、住居や食料を提供したりするなど、様々な支援が行われました。

スラムの撤去と公園の建設

19世紀後半になると、ファイブ・ポインツのスラムを撤去し、公園を建設する運動が起こりました。マルベリー・ベンド地区の一部が撤去され、コロンバス・パークとして再開発されました。

行政機関の進出

20世紀に入ると、ファイブ・ポインツの地域は再開発され、連邦・州・市の行政機関が建ち並ぶシビック・センターとなりました。現在では、当時の面影はほとんど残っていません。

ファイブ・ポインツが残したもの

ファイブ・ポインツは、その過酷な環境にも関わらず、アメリカ文化に大きな影響を与えました。タップダンスやジャズの誕生、多様な文化の融合など、この地から生まれたものは数多くあります。

大衆文化への影響

ファイブ・ポインツは、チャールズ・ディケンズの『アメリカ紀行』や映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』など、数多くの文学作品や映画の舞台となっています。これらの作品を通じて、ファイブ・ポインツの歴史と文化は、現代にも語り継がれています。

ファイブ・ポインツは、ニューヨークの暗黒時代を象徴する場所でありながら、同時に多様な文化が交流し、新たなものが生まれる場所でもありました。その歴史は、現代社会にも多くの教訓を与えてくれます。

もう一度検索