ファリニシュ

ファリニシュ：アイルランド神話に登場する魔法の犬

ファリニシュ（アイルランド語: Failinis、Ṡalinnis/Shalinnis）は、アイルランドの伝承文学に登場する不思議な力を持つ犬です。元々はイルアドの国の犬でしたが、トゥアハ・デ・ダナーン（ダーナ神族）の長腕のルーが、トゥレンの子らから賠償として得た物品の一つとして知られています。

起源と所有者

ファリニシュは、元々イルアドの鍛冶師または王の仔犬でした。『アイルランド来寇の書』ではイルアドの王宮の鍛冶師の犬として登場し、『トゥレンの子らの最期』ではイルアドの王が所有する犬として描かれています。

ルーが所有した後、異国の三人組の手に渡り、フィン・マックール率いるフィアナ騎士団と遭遇します。古謡では、犬が密造した酒を盗み見た団員が犬によって始末されますが、フィンに犬が献上されます。しかし、三人組は犬を殺し、毛皮だけを異国に持ち去ってしまいます。散文物語では、犬の名前がフェル・ヴァックに変わっており、盗み見した隊員の行方は不明のまま、三人組や犬の罪は問われません。

特徴と能力

ファリニシュは、その毛皮に触れる水をワインに変える、または口から酒類を吐き出す能力を持つと言われています。また、百獣に君臨するとも言われ、魔法で人間を亡き者にするほどの殺傷能力も持っています。

戦においては無敵であり、遭遇した野獣はすべて捕らえ、猟の獲物となるあらゆる動物を捕らえることができます。この犬の持つワインを生み出す力は、『アイルランド来寇の書』にも記述されており、フィアナ伝説群の古謡にも引き継がれています。

外見

古謡に登場するファリニシュは、「いと美しき色の犬」と形容され、フェル・ヴァクは極彩色で、白、黒、青色を含めたあらゆる色合いを放つとされています。昼間は「五十人の男も倒す」ほどの巨犬ですが、夜になると「火の玉」または「雷霆」と化します。フェル・ヴァクも通常は巨大ですが、酒類を出す際には女王の膝上のテンほどの大きさに縮小します。

犬の性別については解釈が分かれており、古謡ではオス犬（Rüde）、フェル・ヴァクはメス犬（bitch）と訳されています。

物語における役割

フィン物語群では、ルーの持ち物として明記されており、トゥルナイゼンによってその関連性が指摘されています。『古老たちの語らい』の挿入話も古謡の粗筋と同じであり、A・G・ファン・ハメルによって同じ伝承であることが指摘されています。

古謡や散文物語では、三人組が犬を使ってワインや酒類を密造していましたが、覗き見をしたフィアナ騎士を始末します。古謡では、フィンが下手人を突き止め、犬は賠償としてフィンに差し出されますが、三人組は犬を殺して毛皮を持ち去ります。一方、『古老たちの語らい』では、盗み見したウラドの王子たちの行方は不明のまま、三人組はフィンの庇護下に入り、不問に処されます。

フェル・ヴァックの攻撃は、『古老たちの語らい』に詳しく描写されています。尾を上げて魔法の風を呼び起こし、相手から武器を奪い、三人組が始末した後、息を吹きかけて遺体を塵と灰に変えてしまいます。また、ウアルの三人の息子たちの退治にも加わり、尻尾の風で敵を海へ追いやり、同士討ちをさせています。

名前の由来

ファリニシュ（Failinis）という名前は、アイルランドの美称 "Inis Fáil"（ファルの島）を逆にしたものではないかとオカリーは考察しています。マカリスターも、このような名前は「聞くからに、超常級の神話の混同」であろうと述べています。しかし、トゥルナイゼンが指摘するように、同一またはほぼ同一の名前が中世12世紀のフィアナ伝説群の古謡に見られることから、近代に作られたものではないと考えられています。

このように、ファリニシュはアイルランド神話において、特別な力を持つ犬として、様々な物語で重要な役割を果たしています。

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