ファン・ベレステイン家の一員と思われる男性の肖像

レンブラント・ファン・レイン作『ファン・ベレステイン家の一員と思われる男性の肖像』

[レンブラント・ファン・レイン]は、オランダ黄金時代を代表する巨匠です。その彼が1632年に描いた『ファン・ベレステイン家の一員と思われる男性の肖像』は、17世紀オランダ絵画の精緻な技術と心理描写を見事に融合させた傑作です。

この肖像画は、キャンバスに油彩で描かれており、等身大に近い大きさで、男性は4分の3の構図で描かれています。モデルは、デルフトの富裕な市長であったコルネリス・ファン・ベレステイン(1586-1638)であると推測されています。

男性は、帽子をかぶらず、白髪交じりの髪を立てた髪型に、先の尖った顎髭を生やしています。上着は、灰色と黒の縞模様の絹のコートで、襟には当時の流行であったレースのカラーを身につけています。右手は胸の上に置き、手袋をした左手は、もう一方の手袋を掴んでいます。この抑制されたポーズと、どこか物憂げな表情は、レンブラントがアムステルダムの人物を描いた際にみられる、親しみやすさや躍動感とは対照的です。

当時のデルフトやハーグの肖像画は、スペイン宮廷肖像画の伝統を受け継ぎ、比較的保守的な作風であったとされています。レンブラント自身、1632年には少数の肖像画しか制作していなかったとされており、この作品は、彼の初期の肖像画における重要な位置を占めていると言えるでしょう。

絵画の背景は暗灰色で、左上から差し込む光によって、男性の顔や衣服の質感、そしてレースの繊細さが強調されています。背景の簡素さと男性の描写の精緻さとの対比が、鑑賞者の視線を自然とモデルへと導きます。

この作品は、対となる『ファン・ベレステイン家の一員と思われる女性の肖像』と共に、長い間レンブラントの真作として扱われてきました。しかし、近年では、女性の肖像画についてはレンブラントの真作ではないとする議論も出ています。それでも、両作品は同時代の工房の作品と関連付けられ、対の作品として扱われることが多いです。

両作品は、1929年にH.O.ハヴマイアー夫人の遺贈によってニューヨークのメトロポリタン美術館に収蔵されました。その来歴は、ハヴマイアー夫人がモーリック城から購入した時点より以前には遡ることができず、描かれた人物が実際にファン・ベレステイン家の人物であるかどうかも、はっきりとは分かっていません。

しかしながら、『ファン・ベレステイン家の一員と思われる男性の肖像』は、レンブラントの初期の肖像画における技術の高さと、当時の社会や文化を反映した重要な作品として、美術史における重要な位置を占めています。その抑制された表現力と、光と影の巧みな使い方は、今もなお鑑賞者を魅了し続けています。

1914年の研究者ホフステーデ・デ・フロートによる記述では、絵画の状態や、モデルに関する情報も記されています。キャンバスは一度移し替えられており、その際に損傷を受けている点、モデルについてはほとんど知られていない点などが挙げられています。

この作品は、レンブラントの絵画を理解する上で欠かせない重要な作品であり、今後も多くの研究者や美術愛好家によって研究され、鑑賞され続けることでしょう。

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