ファーディ・パチェコ

ファーディ・パチェコ（Ferdie Pacheco, 1927年12月8日 - 2017年11月16日）は、アメリカ合衆国の医師であり、著名なボクシングトレーナーです。フロリダ州タンパで生まれ、数々のボクシング世界王者の主治医やセコンドを務め、「ファイト・ドクター」として知られていました。特に、モハメド・アリとの深い関わりは有名です。

生い立ちと医学への道

パチェコはスペイン系キューバ人の両親のもと、フロリダ州タンパのイーバー・シティで育ちました。ここはキューバ系アメリカ移民のコミュニティで、彼はバイリンガルとして成長しました。父親が薬剤師だったこともあり、幼い頃から医学への関心を抱いていました。また、祖父に連れられてジョン・アンド・メイブル・リングリング美術館を訪れたことがきっかけで、芸術への興味も深めました。パチェコ自身はボクシングをすることはありませんでしたが、近所で開催されるアマチュアボクシングの試合を観戦することが好きでした。

モハメド・アリとの出会い

医師として活動するようになった1950年代後半、パチェコは地元のボクシング興行を頻繁に訪れていました。そこで、ボクシングトレーナーのアンジェロ・ダンディーと出会います。ダンディーはパチェコに、「自分のボクサーの傷を縫うのを手伝ってくれるなら、試合のチケットを手配する」と持ちかけました。1960年、マイアミの5thストリートジムでダンディーが指導していたモハメド・アリと出会い、この出会いがきっかけで、パチェコは1962年から1977年までアリのセコンドを務めることになります。

アリがネーション・オブ・イスラムの信者となり、1964年に名前をカシアス・クレイから改名した際、ネーション・オブ・イスラムはパチェコやダンディーを含むアリのチームメンバーを解雇しようとしましたが、アリはこれを拒否したと言われています。1970年代半ばまでに、パチェコはアリの反射神経の低下に気付き、長年のボクシングによるダメージが脳や腎臓に影響を与えているのではないかと医学的な懸念を抱くようになります。

アリへの引退勧告とチームからの離脱

1977年9月のアーニー・シェーバース戦後、パチェコはアリに反射神経テストを実施しました。その結果、アリの反応速度が以前より大幅に低下しており、リング上で自分自身を守るためのレベルに達していないと判断しました。パチェコはアリの健康を深く心配し、すぐにボクシングから引退するよう勧告しました。しかし、アリが引退を拒否したため、パチェコは医学的見地から倫理的にアリの主治医を続けることができないと判断し、チームから離れることを決意しました。

パチェコは後に、「ニューヨーク州アスレチック・コミッションが、アリの腎臓が傷んでいることを示す報告書を見せてくれた。私はアンジェロ・ダンディー、アリのトレーナー、アリの妻、そしてアリ本人に手紙を書いたが、何の返答もなかった」と語っています。アリはパチェコがチームを去った後も、1981年に引退するまでに4試合行いましたが、その戦績は1勝3敗でした。

意見の相違はあったものの、パチェコとアリはその後も友人関係を続けました。2002年に最後に会った時、アリはボクシングによるダメージで発症したパーキンソン症候群の症状が深刻になっており、パチェコに「お前が正しかった」と認めたそうです。

引退後と晩年

アリのセコンドを辞めた後、パチェコはテレビのボクシング解説者として活動し、1990年代後半に引退するまで約20年間、NBC、Univision、Showtimeで解説を務めました。スペイン語を話せたことから、ラテン系ボクサーのインタビューや、試合中のセコンドとボクサーの会話を同時通訳するなど、その才能を発揮しました。

パチェコはまた、作家としても活動し、小説、自伝、料理本、演劇や映画の脚本を執筆しました。さらに、画家としても才能を発揮し、ノーマン・ロックウェルやディエゴ・リベラから影響を受けた絵画で数々の賞を受賞しています。

2017年11月16日、パチェコは89歳でフロリダ州マイアミの自宅で睡眠中に亡くなりました。その生涯は、医学、スポーツ、芸術の分野で多岐にわたる貢献を果たした、才能あふれる人物として記憶されるでしょう。

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