フアン・マヌエル・デ・ロサス

フアン・マヌエル・デ・ロサス：賛否が分かれるアルゼンチンの指導者

フアン・マヌエル・デ・ロサス（1793年 - 1877年）は、アルゼンチンの政治家、軍人であり、カウディーリョ（地方の軍事指導者）として、アルゼンチン史において重要な人物の一人です。彼の評価は、フアン・ペロンと並んで、国民の間で大きく分かれています。

生い立ちと初期の活動

ロサスはブエノスアイレスで生まれ、幼少期は祖父の牧場で過ごしました。そこで彼は乗馬や投げ縄などの技術を習得し、ガウチョ（南米の遊牧民）としての素養を身につけます。また、インディオとの交流を通じて、彼らの文化や言語を学びました。イギリス軍がブエノスアイレスに侵攻した際には、少年ながら民兵隊に加わり、愛国心を示しました。

成人後、ロサスは牧場や肉の塩漬け処理場を経営し、一代で財産を築きました。彼はその財力を用いて私兵を雇い、貧しい人々に施しを与えるなど、地域社会への貢献も行いました。その容姿や誠実な人柄、そして卓越した騎馬技術から、彼は「青い眼のガウチョ」と呼ばれ、ガウチョや黒人といった社会の底辺層から絶大な尊敬を集めました。

政治家、軍人としての台頭

ブラジル戦争中、ロサスは州の自治権を主張し、中央集権的な政府を批判しました。彼は連邦派のリーダーとして台頭し、1829年には統一派のフアン・ラバージェを打倒してブエノスアイレス州知事に就任しました。ロサスは州知事として、連邦派のカウディーリョたちと同盟を結び、統一派の中央集権勢力を打ち破り、国内の混乱を鎮めました。

1832年に州知事を退任した後、ロサスは私兵を率いて「荒野の征服作戦」と呼ばれる軍事行動を実行し、インディオをブエノスアイレス州からほぼ一掃しました。この作戦では、多くのインディオが殺害されたとされています。

1835年、ロサスは再び州知事に就任し、17年間にわたる独裁政治を行いました。彼は反対派や自由主義者を弾圧し、言論の自由を奪いました。一方で、保護貿易政策を推進し、イギリスやフランス、ウルグアイとの戦争（大戦争）を乗り越え、外国勢力の侵略から国を守りました。また、亡命中のホセ・デ・サン・マルティンからサーベルを贈られるなど、愛国者としての評価も確立しました。

失脚と亡命、そして再評価

1852年、ロサスの腹心であったフスト・ホセ・デ・ウルキーサが反乱を起こし、ロサスはカセーロスの戦いで敗北しました。彼はイギリス船に乗り込み、娘と共にイギリスへ亡命しました。ロサスは海外に資産を残していなかったため、サウサンプトンで困窮のうちに亡くなりました。

失脚後、ロサスは自由主義者によって「独裁王」、「暴君」として非難され、その遺体は長らくアルゼンチンへの帰国を拒否されました。しかし、1930年代以降、保守思想の復権とともに再評価の動きが起こり、1982年のフォークランド紛争後には、アルゼンチン政府によって遺体が本国に埋葬され、公式に再評価されました。

現在の評価

現代のアルゼンチンにおいて、ロサスの評価は大きく分かれています。一部では、血なまぐさい独裁者として否定的に評価される一方で、外国の干渉に抵抗した愛国者として肯定的に評価する人々もいます。後者の立場は「ロシスモ」（ロサス主義）と呼ばれ、支持を集めています。現在、アルゼンチンの20ペソ紙幣には、ロサスの肖像が使用されています。

ロサスの生涯は、アルゼンチンの歴史における複雑な側面を象徴しています。彼の評価は、今後の歴史研究や社会情勢の変化によって、さらに変化していく可能性があります。

関連事項：アルゼンチン連合、保護貿易、ガウチョ、ドゥルセ・デ・レチェ、ロサス時代

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