フアン・ルルフォ

フアン・ルルフォ：メキシコ文学を代表する作家

フアン・ルルフォ（Juan Rulfo, 1917年5月16日 - 1986年1月7日）は、メキシコの小説家であり、写真家としても才能を発揮しました。本名はフアン・ネポムセーノ・カルロス・ペレス＝ルルフォ・ビスカイーノ。ラテンアメリカ文学において非常に重要な作家の一人とされています。

生い立ちと初期の人生

ルルフォは、ハリスコ州サユラで生まれました。幼少期に父親を亡くし、その後母親も亡くしたため、祖母に引き取られ、サン・ガブリエルで育ちました。メキシコ革命やクリステロ戦争の影響で、地主であったルルフォの一族は財産を失いました。10歳で母親を亡くし、その後叔父も亡くすなど、幼少期は困難な環境で過ごしました。

ルイス・シルバ学校で小学校と特別課程を修了後、簿記係の免許を取得しましたが、その職に就くことはありませんでした。神学校に進学するも、大学進学はストライキの影響で断念。その後、メキシコシティで国立陸軍士官学校に短期間在籍し、メキシコ国立自治大学で法律を学ぼうとしましたが、うまくいきませんでした。その後、叔父の紹介で出入国管理事務所に就職し、文学課程を聴講することができました。

作家としての活動

同僚のエフレン・エルナンデスの指導を受け、ルルフォは執筆活動を開始しました。1944年には文芸雑誌『パン』を共同で創刊。出入国管理事務所での勤務を経て、グッドリッチ・エウスカディ社で営業職に就きましたが、穏やかな性格のため、セールスマンには向いていませんでした。ロックフェラー財団の支援を受け、1952年から1954年にかけて、代表作となる2冊の本を執筆しました。

代表作

ルルフォの代表作は、短編集『燃える平原』（1953年）と長編小説『ペドロ・パラモ』（1955年）です。

『燃える平原』: メキシコ革命とクリステロ戦争の時代のメキシコ農村を舞台にした短編集です。現実の苛酷さを描き出し、特に「殺さねえでくれ」や「犬の声は聞こえんか」は、高い評価を受けています。
『ペドロ・パラモ』: 父親を探して、母親の故郷コマラを訪れるフアン・プレシアドを主人公とした短編小説です。コマラは死者の住むゴーストタウンであり、幻想的な世界が展開されます。発表当初は批判的な意見もありましたが、後にラテンアメリカ文学に大きな影響を与えました。

特に『ペドロ・パラモ』は、ガブリエル・ガルシア＝マルケスに大きな影響を与え、「（ルルフォの公刊されたすべては全部合わせても）合計300ページしかない。だが、それはソポクレスが我々に残したものとほぼ同じページ数で、やはりソポクレス同様に永遠に残るものと信じている」と絶賛しました。

後期の活動

2冊の小説を発表後、ルルフォは小説の執筆からは離れましたが、メキシコ文学界の重要な人物として活躍しました。映画やテレビの脚本を執筆し、その中にはカルロス・フエンテスやガブリエル・ガルシア＝マルケスと共同で執筆した作品もあります。また、ルルフォは写真家としても活動し、作品は展示会も開催されました。さらに、国立先住民局の出版部長として、メキシコ先住民の生活を記録した写真集の出版にも尽力しました。

晩年には、クリステロス反乱をテーマにした長編小説『La cordillera（山脈）』を執筆しましたが、未完に終わりました。

受賞と晩年

1970年にメキシコ国民文学賞を受賞し、1983年にはアストゥリアス皇太子賞を受賞しました。1986年、肺癌のため68歳で死去。息子のフアン・カルロス・ルルフォは、父の思い出を綴った映画を制作しました。

日本語訳

『ペドロ・パラモ』（訳：杉山晃、増田義郎。岩波文庫）
『燃える平原』（訳：杉山晃。書肆風の薔薇・叢書アンデスの風）


フアン・ルルフォの作品は、メキシコの現実と幻想が交錯する独特の世界観を描き出し、ラテンアメリカ文学に多大な影響を与えました。彼の作品は、現在も多くの人々に読まれ、その文学的な価値は高く評価されています。

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