フィアット・850

フィアット850：1960年代を彩ったイタリアの小型車

フィアット850は、イタリアの自動車メーカー、フィアット社が1950年代後半から1970年代前半にかけて製造・販売した小型乗用車シリーズです。フィアット600の後継モデルとして開発され、ベルリーナ、クーペ、スパイダー、そして実用的なT/ファミリアーレの4つのボディタイプが展開されました。そのスタイリッシュなデザインと高い実用性から、イタリア国内のみならず世界中で人気を博し、シリーズ累計生産台数は220万台以上に達しました。

ベルリーナ：大衆車としての成功

1965年に登場したベルリーナは、600をベースにホイールベースを延長し、排気量を843ccに拡大したモデルです。最高出力は34馬力（ノルマーレ）または37馬力（スーパー）と、600よりも大幅に向上しました。ノッチバックスタイルの車体は、600よりも洗練された印象を与え、大衆車として大きな成功を収めました。特徴的な大きなヘッドライトと短いテールは、時代を超えて愛されるデザインとして記憶されています。さらに、アバルトによるチューニングモデルも数多く存在し、中には150馬力を誇るモンスターマシンも存在しました。1968年には上級モデル「スペシャル」も登場、よりスポーティな仕様となりました。1972年、フィアット127に後を継いで生産終了となりました。

クーペ：スポーティな走りを提供

1965年のジュネーヴモーターショーでデビューしたクーペは、そのスタイリッシュなデザインで注目を集めました。843ccのエンジンは、最高出力47馬力にチューンされ、最高速度は135km/hに達しました。1968年には排気量が903ccに拡大され、「850スポルト・クーペ」としてマイナーチェンジ。フロントデザインも変更され、よりスポーティな印象となりました。その後もマイナーチェンジを繰り返しながら、1971年にフィアット128クーペに後を譲り生産終了となりました。

スパイダー：オープンエアの爽快感

クーペと同時に発表されたスパイダーは、2座席のオープンモデルです。ベルトーネ社のデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロによる傑作デザインと称えられており、美しいプロポーションと流麗なボディラインが特徴です。843ccエンジンはシリーズ最強の49馬力を発揮し、最高速度は145km/hに達しました。特にアメリカ市場で人気が高く、1973年まで生産されました。後継車種には、フィアットX1/9がラインナップされました。初期型の傾斜したヘッドライトは、独特の個性を放っていました。1968年のマイナーチェンジでヘッドライト形状が変更されたことで、初期型特有の美しさは失われてしまいましたが、それでも高い人気を誇りました。

T/ファミリアーレ：実用性を重視したモデル

商用車として、キャブオーバー型の850T（貨物バン）と850ファミリアーレ（乗用ワゴン）が開発されました。7人乗りを標準とし、高い積載能力を備えていました。600ムルティプラとは異なり、専用設計のボディは優れた機能性と使い勝手を提供しました。最高速度も100km/hを公称していました。1976年には排気量が903ccに拡大され「900T」となりましたが、基本的な設計は変わらず、1985年まで生産されました。850シリーズの中で最も長く生産されたモデルです。

日本での人気

日本でも西欧自動車によって輸入され、セダン、クーペ、スパイダーの3タイプが販売されました。比較的安価であったことから、多くのユーザーに受け入れられ人気を博しました。当時、高級車とされていたトヨタ・クラウンと同等の価格帯であったことは注目に値します。

その他

アメリカ輸出仕様車には、排気ガス規制に対応するため、排気量817ccのエンジンが搭載されました。また、スペインのセアト社やブルガリアでもライセンス生産が行われていました。

フィアット850シリーズは、その多様なバリエーションと優れたデザイン、そして手頃な価格で、世界中の自動車ファンを魅了した名車と言えるでしょう。

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