フィリップ・シドニー

サー・フィリップ・シドニー：エリザベス朝イングランドの文武両道の星

サー・フィリップ・シドニー(1554年11月30日-1586年10月17日)は、エリザベス朝イングランドで活躍した詩人、廷臣、そして軍人として知られています。彼の名は、ソネット連作『アストロフェルとステラ』、散文ロマンス『アーケイディア』、そして英語で書かれた最初の詩論とされる『詩の弁護』といった名高い作品群によって、今日まで語り継がれています。

華麗なる一族とヨーロッパでの修練

シドニーは、裕福で名家のシドニー家の一員として、ケント州で生まれました。母方の親戚には、権力者であるレスター伯ロバート・ダドリーが含まれていました。彼はシュルーズベリー・スクールとオックスフォード大学クライスト・チャーチで教育を受け、その後、ヨーロッパ各地を広く旅しました。ドイツ、イタリア、ポーランド、オーストリアなどを歴訪し、多くの知識人や政治家と交流を深めたことで、彼の知的な視野は大きく広がりました。

奔放な恋愛と宮廷との確執

帰国後、シドニーはペネロープ・デヴァルーという女性との恋愛関係にありましたが、結婚には至りませんでした。また、フランスとの縁組みに反対したことから、有力貴族であるオックスフォード伯と対立し、決闘寸前にまで至る事態も招いています。エリザベス女王の怒りを買ったシドニーは宮廷から一時的に離れ、妹メアリーの夫であるペンブルック伯の屋敷に滞在することになります。この期間に、彼は多くの作品を執筆しました。

文筆活動と芸術への傾倒

宮廷を離れた生活は、シドニーの芸術家としての才能をさらに開花させました。この間に彼は『アストロフェルとステラ』や『オールド・アーケイディア』、『詩の弁護』といった重要な作品を執筆しました。特に『アストロフェルとステラ』は、イングランドにおけるソネットという詩形式の確立に大きく貢献し、その洗練された表現と深い感情表現は、後世の詩人たちにも多大な影響を与えました。『詩の弁護』では、詩の社会的な役割や価値を力強く擁護し、詩という芸術形式の重要性を論じています。

プロテスタントとしての信念と最期の戦い

シドニーは熱烈なプロテスタントでした。サン・バルテルミの虐殺といった経験も彼の信念を強固なものにしたと考えられます。彼はプロテスタント諸侯の連携やスペインへの攻撃を訴えるなど、積極的な政治活動も行っています。1585年にはオランダのフリシンゲン提督に就任し、スペイン軍と戦うことになります。

ジュトフェンの戦いで、彼は負傷し、その傷がもとで亡くなりました。しかし、戦場で負傷した兵士に自分の水筒を譲るなど、その高潔な人となりは広く称賛されています。彼の死は、イングランドに大きな衝撃を与え、多くの人々が彼の博識、賢明さ、寛大さ、勇敢さを称えました。

主要作品

アストロフェルとステラ

シドニーの代表的な作品の一つで、1580年代初頭に書かれたソネット連作です。プラトニックな愛をテーマに、洗練された言葉と深い感情で描かれたこの作品は、イングランド・ルネサンス詩の重要な転換点となりました。

アーケイディア

長編散文ロマンス作品。理想化された羊飼いの生活や政治的陰謀、冒険といった様々な要素が織り込まれた、複雑で魅力的な物語です。シェイクスピアをはじめ、後の作家にも影響を与えた作品とされています。

詩の弁護

詩の価値と役割を論じた、英語で書かれた初期の詩論です。詩を哲学や歴史と同等の価値を持つものとして捉え、その教育的、道徳的な効果を強調しています。

シドニーの遺産

シドニーは、詩人、廷臣、軍人としての優れた才能に加えて、高い倫理観と人徳でも知られていました。彼の生涯と作品は、エリザベス朝イングランドの文化と社会を理解する上で、重要な手がかりとなります。彼の作品は、今日でも広く読まれ、その魅力は色褪せることがありません。彼の生きた時代を超えて、シドニーは、文武両道の理想を体現した人物として、記憶され続けています。

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