フィリップ・ビュルティ

フィリップ・ビュルティ：19世紀フランス美術界の多才な巨人

フィリップ・ビュルティ (1830-1890) は、19世紀フランスを代表する美術評論家であり、作家、詩人、イラストレーター、版画家、そして熱心な美術コレクターとして知られています。裕福な生糸商の家に生まれたビュルティは、パリで豊かな教養を身につけて育ちました。彼の多様な才能は、美術評論家としての活動に留まらず、複数の雑誌への寄稿、美術関連書籍の出版、そして独自の美術コレクションへと広がりを見せました。

美術評論家としての活躍

ビュルティは、1859年に創刊された権威ある美術雑誌『ガゼット・デ・ボザール』の初期からの美術評論家として活躍しました。さらに、『Le Rappel』、『La Renaissance littéraire et artistique』、『La République Française』、『Academie』、『L'Art』といった様々な雑誌に寄稿し、当時の美術界に大きな影響を与えました。特に注目すべきは、1872年に『La Renaissance littéraire et artistique』で「ジャポニスム」という言葉を初めて用いたことです。これは、後に大きな美術運動となるジャポニスムの端緒を開いた重要な出来事と言えるでしょう。

版画への情熱と東洋美術への造詣

ビュルティは、ロマン派の巨匠ウジェーヌ・ドラクロワの研究にも深く関与し、ドラクロワの書簡集を編集・出版しました。また、1860年代からフランス人画家の版画を収集し始め、その関心は、やがて日本の浮世絵版画へと広がっていきました。彼の情熱的な収集活動は、浮世絵にとどまらず、日本の陶磁器や刀剣類にまで及んだと伝えられています。

『Sonnets et eaux-fortes』と美術界への貢献

1869年、ビュルティは版画と詩を組み合わせた画集『Sonnets et eaux-fortes』を編集・出版しました。この画集は、当時の著名な画家たちの版画と詩を収録したもので、高い評価を受けました。ビュルティの版画に対する深い知識と、芸術への情熱が凝縮された作品と言えるでしょう。

サミュエル・ビングとの関係

ビュルティは、日本の美術品を扱う美術商サミュエル・ビングの重要な顧客でもありました。ビングが創刊した雑誌『Le Japon artistique』にも寄稿し、日本の美術に関する記事を執筆しています。ビュルティとビングの協力関係は、ジャポニスムの普及に大きく貢献したと言えるでしょう。

家族と美術史への更なる貢献

ビュルティの娘マドレーヌは、世界的に有名なリモージュ磁器メーカー、アビランド社の経営者と結婚しました。彼女の息子であるポールは、パリ大学とハーバワード大学大学院を卒業後、ニューヨークで活動し、写真雑誌『291』や画廊を経営しました。また、もう一人の息子フランクはキュビズム画家として活躍し、ピカソやブラックらのパトロンを務め、セレ現代美術館を設立するなど、美術史に多大な貢献をしました。

まとめ

フィリップ・ビュルティは、美術評論家、作家、詩人、イラストレーター、版画家、そして熱心なコレクターという多様な顔を持つ、まさに19世紀フランス美術界を代表する人物でした。彼の活動は、ジャポニスムの普及、版画芸術の振興、そして日本の美術の欧州への紹介に多大なる貢献を果たしました。さらに、彼の家族も美術界で重要な役割を果たしており、ビュルティ家全体が美術史に大きな足跡を残したと言えるでしょう。彼の生涯と業績は、現代においても美術史研究において重要な位置を占めています。そして、その多様な才能と情熱は、後の世代の芸術家や美術愛好家たちに大きな影響を与え続けています。

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