フィリドール家

フィリドール家

17世紀から18世紀にかけて、フランス音楽史において重要な役割を果たした一族、それがフィリドール家（仏語：Philidor）です。特に管楽器の分野で卓越した才能を発揮し、ルイ王朝の宮廷を中心に活躍しました。一族の中で最も広く知られているのはフランソワ＝アンドレ・ダニカン・フィリドールですが、彼の他にも多くの優れた音楽家を輩出しており、彼らの功績は多岐にわたります。

フィリドール家の音楽家としての歴史は、フランソワ＝アンドレの祖父にあたるジャン・ダニカン・フィリドール（Jean Danican Philidor, 1620年頃-1679年）に始まります。彼は、王室の騎馬隊に付随するグラン・デキュリー軍楽隊の一員としてキャリアを築きました。フィリドールの姓は、時の国王ルイ13世が、ジャンの演奏を聴いて、イタリアの著名なオーボエ奏者であったフィリドーリ（Filidori）を思い出し、感銘を受けて与えられたものだと伝えられています。また、「ダニカン」という添え名は、一族が後代に名乗るようになったもので、その語源については、元の綴りがd'Anicanであったとする説や、スコットランド系の「ダンカン（Duncan）」に由来するといった説があります。

一族の初期の重要な人物に、フランソワ＝アンドレの大叔父にあたるミシェル・ダニカン（Michel Danican, 1659年頃没）がいます。彼は当時を代表するオーボエ奏者であり、後にオーボエの「フランス式」と呼ばれるスタイルの基礎を築いたジャン・オトテールと共同で、当時の主要なダブルリード楽器であったショームを改良し、現代のオーボエの原型となる楽器を生み出した功績で知られています。

ジャンの息子であるアンドレ・ダニカン・フィリドール（André Danican Philidor, 1647年頃-1730年）は、後の同名の子息（フランソワ＝アンドレ）と区別するため、「老フィリドール（Philidor l'ainé）」と呼ばれました。彼も父と同じくグラン・デキュリー軍楽隊で音楽活動を始めましたが、後にルイ14世に才能を見出され、フランス宮廷楽団の一員となりました。宮廷では、オーボエやクルムホルンといった管楽器の卓越した奏者として活躍し、多くの重要な演奏機会に恵まれました。

アンドレの弟、ジャック・ダニカン・フィリドール（Jacques Danican Philidor, 1657年-1708年）もまた、兄と同様に音楽家として活動しました。地方では「若いフィリドール（Philidor le cadet）」の愛称で知られていました。

ジャックの子息であるピエール・ダニカン・フィリドール（Pierre Danican Philidor、1681年-1731年）もまた音楽の道に進み、一族の音楽的な系譜を受け継ぎました。

そして、老アンドレの長子にあたるアンヌ・ダニカン・フィリドール（Anne Danican Philidor, 1681年-1728年）は、兄フランソワ＝アンドレとは腹違いですが、彼の音楽史における功績は特筆すべきものです。彼は、フランスにおける公開演奏会の先駆けともいえる「コンセール・スピリテュエル」を1725年に創設しました。この音楽会シリーズは、テュイルリー宮殿を主な会場として1791年まで長期間にわたって継続され、当時のパリにおける重要な音楽イベントとして、多くの作曲家や演奏家、聴衆に影響を与えました。アンヌ自身もフルート奏者として活躍しました。

このように、フィリドール家は、創設者とされるジャンから始まり、楽器開発に貢献したミシェル、宮廷で重用されたアンドレやジャック、そして画期的な公開演奏会を立ち上げたアンヌなど、多岐にわたる分野でフランスの音楽文化の発展に寄与しました。彼らの活動は、17世紀後半から18世紀にかけてのフランス音楽の隆盛を支える重要な要素であったと言えるでしょう。

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