フェイザー (音響機器)

フェイザーとは

フェイザー（Phaser）とは、音色を連続的に変化させるためのエフェクターの一種です。これは、入力された原音信号と、その位相を意図的に変化させた信号の二つを重ね合わせる（干渉させる）ことで、独特な「うねり」や「スイープ」と呼ばれる効果を生み出します。かつてはその原理から、「フェイズシフター（phase shifter）」とも呼ばれていました。

開発の背景と目的

フェイザーの開発は、ハモンドオルガンなどで使われるロータリースピーカーが生み出す回転効果を、電子的に再現することを目的として始まりました。ロータリースピーカーは物理的にスピーカーを回転させることで音に揺らぎと広がりを与えるものですが、これをエフェクターによって実現しようとしたのです。しかし、結果としてフェイザーはロータリースピーカーの音を忠実に再現するのではなく、全く異なる、フェイザー独自の音色効果を生み出すこととなりました。ロータリースピーカーのシミュレーションを目的としたエフェクターは、後に別の製品として開発されることになります。

効果の調整と活用

フェイザーの効果は、主に以下の要素を調整することで変化させられます。

深さ（Depth）：効果の強弱、音色変化の幅を調整します。
周期（Rate/Speed）：音色変化が繰り返される速さを調整します。

これらの調整により、緩やかで幻想的な揺らぎから、速く機械的なサウンドまで、多様な音色を作り出すことが可能です。特に、周期的な音色変化は楽曲のテンポと同期させると、よりダイナミックでグルーヴィーな効果が得られます。例えば、ギターのカッティングに合わせてフェイザーの周期を調整すると、リズミカルな躍動感が増します。一部の先進的なモデルには、プレイヤーがスイッチを踏む操作などから演奏のテンポを自動的に検出し、効果の周期を適切な速さに設定する機能も搭載されています。

代表的な使用例

フェイザーは様々な楽器、特にギターで広く使われており、多くの有名アーティストや楽曲でその特徴的なサウンドを聴くことができます。

レゲエ：シンプルながらもグルーヴが重要なレゲエミュージックでは、ギタリストがバッキング演奏にフェイザーを控えめにかけることで、独特の浮遊感や揺らぎを加えています。
クイーン：楽曲「キラー・クイーン」では、ギターだけでなくピアノにもフェイザーが使用され、独特の煌びやかなサウンドを作り出しています。
「ガッチャマンの歌」：アニメ主題歌としても有名なこの曲では、印象的なギターのカッティングにフェイザー効果が施されています。
ヴァン・ヘイレン：伝説的なギタリスト、エドワード・ヴァン・ヘイレンは、特に初期の作品でフェイザーを多用しました。特にMXR製の「PHASE 90」というモデルは、彼のトレードマークとも言えるサウンドの重要な要素であったと言われています。

フェイザーとフランジャーの違い

フェイザーと同様に、原音と加工音の干渉を利用し、LFO（低周波発振器）によって周期的な「うねり」を生み出すエフェクターに「フランジャー（Flanger）」があります。両者は音色も似ていますが、音を作る根本的な原理が異なります。

フェイザー：原音と、オールパスフィルターによって特定の周波数帯域の位相をずらした信号を干渉させます。この位相の変化によって、特定の周波数で信号が打ち消し合い、周波数特性に「ノッチ（溝）」と呼ばれる落ち込みが生じます。このノッチは周波数帯域によって位相のずれ方が異なるため、複数段のフィルターを通すことで複数のノッチを作り出すこともありますが、その特性は比較的非周期的です。
フランジャー：原音と、ごくわずかに時間を遅延させた信号を干渉させます。この遅延によって、信号の山と谷が特定の周波数で周期的に重なったり打ち消し合ったりし、周波数特性に櫛の歯のような周期的な落ち込み（コムフィルタ効果）が生じます。

このように、フェイザーは位相の操作、フランジャーは時間（遅延）の操作を基本としている点が、両者の根本的な違いであり、最終的な周波数特性の現れ方にも差が生じます。

参考文献

デイヴ・ハンター『ギター･エフェクター実用バイブル　自分らしいサウンドを出すために　歴史と基本原理、接続＆トーン攻略まで［改訂拡大版］』（DU BOOKS、2014年）ISBN 978-4-925064-74-3

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