フェラーリ・テスタロッサ

フェラーリ・テスタロッサ：赤い頭を持つスーパーカーの系譜

フェラーリ・テスタロッサは、1984年から1992年にかけてフェラーリ社が製造したスーパーカーです。イタリア語で「赤い頭」を意味するその名は、エンジンのカムカバーが赤く塗装されていることに由来し、過去の傑作レーシングカーである250TRや500TRへのオマージュとなっています。1984年10月、パリのシャンゼリゼ通りにあるキャバレー「リド」で華々しく発表され、それまでのフラッグシップモデルであったフェラーリ512BBiの後継として君臨しました。

圧倒的な動力性能と洗練されたデザイン

テスタロッサの心臓部は、180度バンク角のV型12気筒エンジンです。4,943ccという排気量から生み出される出力は、欧州仕様で390PS/6,300rpm、最大トルクは50.0kgm/4,500rpmを誇ります。日本や北米仕様では排ガス規制への対応のため、若干スペックが抑えられていましたが、それでも380PS/5,750rpmという高い出力を実現していました。最高速度は290km/hから300km/hに達し、0-100km/h加速は5.8秒、0-1000m加速は24.1秒という驚異的な加速性能を誇りました。

ミッドシップレイアウトを採用することで、優れたハンドリングを実現すると同時に、居住性の向上にも配慮されています。エンジンの搭載位置はリアアクスルの周辺、ギアボックスの上部に配置され、重量配分はリアエンジン車に近いものとなっています。しかし、当時の安全基準強化による重量増加や、重心位置の上昇なども相まって、一般的なミッドシップスポーツカーのようなキビキビとしたハンドリングというよりも、より快適なグランドツーリングに適したハンドリング特性を持っていました。

特徴的なデザインとして、サイドに配置されたラジエーターによって車体がワイドになり、ドアからリアフェンダーにかけてはスリット状のエアインテークが設けられています。初期モデルではイタリアの交通法規に従い、サイドミラーは運転席側のみ、Aピラーの中ほどに配置されていた点も興味深いところです。

継続的な改良とバリエーション

1986年モデルからは、海外の法規に対応するため、サイドミラーの位置が一般的なAピラーの根本に変更され、ルームミラーもフロントガラス直付けタイプに変更されました。ホイールも16インチに変更され、タイヤサイズやサスペンションセッティングの変更、そして燃料供給システムの変更など、モデルイヤーを重ねるごとに改良が加えられました。1988年モデルの半ばにはサスペンションの再設計、ホイールの固定方法の変更などが行われました。

1992年、後継モデルである512TRの登場とともに生産が終了しました。

テスタロッサ・スパイダー：特別な一台

フィアット会長ジャンニ・アニエッリの就任20周年を記念して1986年に製造されたワンオフモデル、テスタロッサ・スパイダーが存在します。通常の5速MTに加え、アニエッリの身体状況を考慮してオートマチック機能も備えていたとされ、同様の機構は彼が所有していたフェラーリF40にも搭載されていました。ボディカラーはアニエッリのイニシャル「AG」を銀の元素記号にちなんで、シルバーに塗装されています。

フェラーリ・テスタロッサは、その圧倒的な性能と美しいデザイン、そして進化の歴史を通じて、今もなお多くのファンを魅了し続けるフェラーリの伝説的なモデルです。

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