フェリックス・ハプスブルク＝ロートリンゲン

フェリックス・フォン・ハプスブルク＝ロートリンゲン（Felix von Habsburg-Lothringen, 1916年5月31日 - 2011年9月6日）は、オーストリア＝ハンガリー帝国の帝位にあったハプスブルク＝ロートリンゲン家の一員であり、最後の皇帝カール1世の三男として知られています。彼の生涯は、帝国の崩壊、亡命、二度の世界大戦、そしてその後のビジネス界での活躍と、激動の20世紀の歴史と深く関わっています。

生い立ちと亡命

フェリックスは、カール1世と皇后ツィタの間の第4子として、ウィーンのシェーンブルン宮殿で生まれました。しかし、第一次世界大戦の終結と帝国の崩壊により、一家は1918年にオーストリアを追われ、スイス、マデイラ島へと亡命生活を送ることになります。この亡命生活は、幼いフェリックスに大きな影響を与えたと考えられます。

軍人としての道

1937年、フェリックスはオーストリアへの帰国を許され、テレジア軍事アカデミーに入学します。ハプスブルク家の一員がオーストリア軍に所属するのは、帝政廃止後初めてのことでした。しかし、1938年のアンシュルス（オーストリア併合）により、再びチェコスロバキアへの亡命を余儀なくされます。

第二次世界大戦中は、アメリカ軍に入隊し、弟のカール・ルートヴィヒと共に「自由オーストリア大隊」に所属しました。この大隊は、亡命ユダヤ人兵士を中心に構成される予定でしたが、様々な事情により実現せず、解散という結末を迎えます。

ハプスブルク法との対峙

戦後、オーストリア政府はハプスブルク家に対し、帝位請求権の放棄を求める「ハプスブルク法」の受諾を求めました。フェリックスはこれを人権侵害であるとして拒否し続け、長らくオーストリアへの入国を許されませんでした。1989年に母の葬儀に参列するため、一時的に入国が許可されたものの、その後も入国禁止の状態が続きました。

1996年、フェリックスはEU加盟後の国境警備の緩和に乗じてオーストリアに不法入国し、記者会見を開いて自身の状況を訴えました。この事件をきっかけに、政府との交渉が進展し、最終的には帝位請求権放棄に言及しない形で共和国政府への忠誠を誓い、オーストリアへの自由な入国を許可されることとなりました。

ビジネスと晩年

オーストリア政府との和解後、フェリックスはメキシコやベルギーで様々なビジネスに関わり、経済コンサルタントとして活動しました。和解前は、ポルトガル、ベルギー、メキシコ、アメリカ合衆国を転々としながら生活し、晩年はメキシコシティのサン・アンヘル地区で暮らしました。

2011年9月8日、フェリックスはメキシコシティで95歳で亡くなりました。遺体は、ハプスブルク家の墓所であるスイスのムーリ修道院に埋葬されました。

家族

1952年、アーレンベルク公爵ロベルトの娘アンナ＝ウジェニーと結婚し、7人の子供をもうけました。子供たちはそれぞれ結婚し、新たな世代がハプスブルク家の歴史を紡いでいます。

フェリックス・フォン・ハプスブルク＝ロートリンゲンの生涯は、20世紀の激動の歴史を象徴するものであり、彼の経験は、帝国の崩壊、亡命、戦争、そして和解という、複雑なテーマを私たちに提起しています。

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