フェリペ1世 (カスティーリャ王)

フェリペ1世：美貌の王配、その波乱の生涯

フェリペ1世（1478年7月22日 - 1506年9月25日）は、その美貌から「美公」と称されたブルゴーニュ公であり、カスティーリャ女王フアナの王配として知られています。一時的にカスティーリャ王を称しましたが、その短い生涯は、複雑な政治的状況と家族間の葛藤に翻弄されました。

生い立ち

フェリペ1世は、神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世とブルゴーニュ女公マリーの間に生まれました。当時のブルゴーニュ公国は、シャルル突進公の時代に隆盛を極めていましたが、シャルルが1477年に戦死したことで、公国は混乱に陥ります。その中で、マリー女公はマクシミリアンと結婚し、二人の間にフェリペが誕生しました。しかし、フェリペの誕生は、ブルゴーニュ公位を狙うフランス王ルイ11世にとって大きな脅威となり、様々な策略が巡らされました。幼いフェリペは、母マリーの早世、父との別離を経験し、激動の時代を生きることになります。

母の早世、父との別離

1482年、母マリーが落馬事故で急逝すると、幼いフェリペは父マクシミリアンと離れ、急進的なヘント市民の下で養育されることになります。父マクシミリアンは、失った摂政の地位を取り戻すべく奔走し、各地で反乱を鎮圧します。1485年、3年ぶりに父と再会したフェリペは、父の記憶が薄れており、驚いて泣き出す場面が記録されています。

成長したフェリペは、狩りやトーナメントに優れ、話術も巧みな美貌の公子として知られるようになります。彼は、母の死後にブルゴーニュ公の称号を継承しますが、実際の所領は主にネーデルラントでした。彼の容姿は、死後に「美公」という異名で称えられました。

フアナとの結婚

第一次イタリア戦争において、フェリペの父マクシミリアンは、アラゴン王フェルナンド2世から対仏同盟への参加を強く求められました。その結果、フェリペはフェルナンド2世の娘、カスティーリャ王女フアナとの結婚が決まります。1496年、ゼーラントに到着したフアナを出迎えることがなかったフェリペでしたが、婚礼の前日に初めて対面した二人は、互いに強く惹かれあい、正式な婚礼に先立って簡素な結婚式を挙げたと言われています。

しかし、結婚生活は順風満帆ではありませんでした。フェリペは容姿端麗ではありましたが、暗愚で凡庸な君主であり、フアナの激しい気性に愛想を尽かすようになります。一方、フアナは夫への愛情と嫉妬に苦しみ、精神状態が悪化していきます。フェリペは好色家であり、宮廷の女性たちとの関係に、フアナは激しい嫉妬心を抱き、宮廷内の評判も悪化していきました。しかし、二人の間には2男4女が生まれ、全員が成人しました。

スペインへ

スペイン王家の継承問題

カトリック両王の唯一の男子、アストゥリアス公フアンが病死したことで、スペインの王位継承権はフアナに移りました。しかし、フアナの精神状態は、1503年に次男フェルディナントを出産した頃から顕著に悪化していきます。1504年にイサベル女王が崩御すると、フアナがカスティーリャ女王、夫フェリペが王配となることが遺言で定められます。ただし、フアナの精神状態によっては、フィリップの共同統治権は認められないという条件が付けられていました。この遺言が、フェリペと義父フェルナンドとの対立を激化させる要因となります。

義母イサベル女王の崩御、義父との対立

フェルナンドは、娘フアナの精神状態を理由に、フィリップの統治権を認めようとせず、ブルゴーニュ宮廷に密偵を送り込みます。一方、フィリップ側は、フアナが正常であることを証明しようと、偽の手紙を送りつけます。フェリペは、フアナを周囲から隔離し、スペイン人を警戒しました。彼は、フアナを脅迫したり、愛情を装って懐柔しようとしましたが、フアナは拒否しました。このような状況下で、フィリップはカスティーリャに渡り、現地貴族を臣従させ、統治権を確保しようとします。フランス王ルイ12世は、フィリップを懐柔しようとしますが、裏ではフェルナンドと密かに連携し、フィリップを包囲しようとします。

スペイン上陸

1506年、フィリップとフアナ一行は、悪天候によりイングランドに漂着し、イングランド王ヘンリー7世の歓待を受けました。そこで、政治・軍事での協力関係を取り付けた他、フィリップの妹マルグリットとヘンリー王子、フィリップとフアナの長男カールとメアリー王女との婚約が決定されました。

4月、フィリップとフアナ一行はスペインに到着すると、カスティーリャ貴族からの熱烈な歓迎を受け、フェルナンドも貴族の反発がアラゴンに波及することを恐れ、二人の統治を認めました。こうして、カスティーリャ王国はフィリップの統治下に置かれることになりましたが、フィリップは「王の配偶者」としてのみ認められました。

しかし、熱狂的に歓迎した貴族達もすぐに反発するようになり、さらにルイ12世の背信行為、義父との対立、現地貴族とブルゴーニュ貴族の対立、スペインの炎暑など、ブルゴーニュで大切にされてきたフェリペにとっては過酷な体験が続きました。

急逝

1506年9月、滞在先のブルゴスで飲んだ冷水が原因で、フィリップは28歳の若さで急逝しました。彼の死後、フアナは狂気の女王として、父フェルナンドにより修道院に幽閉されます。父マクシミリアンは、息子の訃報に深く悲しみ、ネーデルラントの統治を娘マルグリットに託しました。

一方、義父フェルナンドは、当初はナポリへの行程を優先しようとしましたが、マクシミリアンの使節の説得により、孫カルロスによるカスティーリャ王位継承を認めました。こうして、スペインは統合への道を歩み始めました。フェリペは生前には王位を認められませんでしたが、ハプスブルク朝が成立すると、孫の代に「フェリペ」の名が受け継がれました。

子女

レオノール（1498年 - 1558年） - ポルトガル王マヌエル1世妃、後にフランス王フランソワ1世妃
カルロス（1500年 - 1558年） - 神聖ローマ皇帝カール5世、およびスペイン王カルロス1世
イサベル（1501年 - 1526年） - デンマーク王クリスチャン2世妃
フェルナンド（1503年 - 1564年） - 神聖ローマ皇帝およびハンガリー王・ボヘミア王フェルディナント1世
マリア（1505年 - 1558年） - ハンガリー王・ボヘミア王ラヨシュ2世妃
カタリナ（1507年 - 1578年） - ポルトガル王ジョアン3世妃

系譜

フェリペ1世の系譜は複雑であり、その血縁関係は当時のヨーロッパの王侯貴族社会を反映しています。マクシミリアン1世とマリーは曽祖父を同じくする又従姉弟の関係にあり、フェリペとフアナも高祖父と曾祖父を同じくする遠戚同士でした。

まとめ

フェリペ1世は、その美貌とは裏腹に、複雑な政治状況と家族間の確執に翻弄され、短く波乱に満ちた生涯を送りました。彼の死後、スペインは統合に向かい、ハプスブルク朝の隆盛を迎えることになります。

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