フェルディナント・ホドラー

フェルディナント・ホドラー（Ferdinand Hodler、1853年3月14日 - 1918年5月19日）は、スイスを代表する画家であり、グスタフ・クリムトと並び称される世紀末芸術の巨匠です。同時代の芸術家たちがパリで活躍する中、ホドラーは一貫してスイスを拠点とし、独自の画風を追求しました。

生涯

1853年、ホドラーはスイスの首都ベルンで、貧しい家庭の長男として生を受けました。父親は大工でしたが、ホドラーが8歳になるまでに、父と2人の弟が結核などの病で相次いで亡くなりました。その後、母親は装飾美術職人と再婚しますが、1867年に母親も結核で他界。最終的に兄弟全員が結核で亡くなるという、悲劇的な幼少期を過ごしました。ホドラー自身が回想録で語るように、貧困の中で、兄弟や母親の遺体を荷車で運んだ経験は、彼の感性に「死」という存在を深く刻み込みました。

義父から絵画の最初の指導を受けた後、1868年から1872年まで、トゥーンのドイツ人画家フェルディナント・ゾンマーに師事しました。19歳でジュネーブに戻り、看板職人や観光客向けの絵の販売で生計を立てながら、1871年から1876年まで画家のバルテルミ・メンの弟子となり、コローやバルビゾン派の影響を受けました。その後、才能を見出されジュネーブの美術学校で基礎を学び、スペインへ渡ってマドリード周辺の風景やスペインの女性を描き、明るい色彩と力強い画風を身につけました。

1889年に制作された代表作『夜』は、1891年にパリのシャン＝ドゥ＝マルス・サロンに出品され注目を集めました。これにより、ホドラーは象徴主義の画家として名を馳せることになります。『夜』の構図は、横たわる女性たちの平行性が強調され、中央に描かれた黒い物体を押しのけようとする男は、若き日のホドラー自身の自画像であると言われています。

1892年にはフランス芸術家協会の会員となり、ゴーギャンやモロー、ナビ派などの世紀末画家たちの作品が集う「薔薇十字サロン」にも出品しました。作風は徐々にモニュメンタルな人物をモチーフとする回帰的な傾向を強め、『生の疲れ』や『落胆した魂』といった作品を生み出しました。また、『ウィリアム・テル』（1903年）のような歴史的・国民的主題も手掛けています。

1904年のウィーン分離派展では、ホドラーの作品がメインルームに展示され、ベルリンの分離派展では、彼のためにギャラリーが一つ割り当てられました。50歳を過ぎて画家として認められたホドラーは、20歳も年下のヴァランティーヌ・ゴデ＝ダレルと情熱的な恋に落ち、娘をもうけますが、ヴァランティーヌは癌により40歳で亡くなります。晩年のホドラーは、ヴァランティーヌと自画像しか描かなくなり、病に伏した後、1918年にジュネーブで65年の生涯を閉じました。

作風

美術史家G.ノーマンの分析によれば、ホドラーの初期の作品にはコローやクールベの影響が見られ、後期の作品では印象派的な色調の幅が取り入れられています。風景画、寓意画、物語画を得意としたホドラーの作品は、自然主義的な側面と象徴主義的な特徴を併せ持ちます。様式上の特徴としては、画面の構成的な性格、相称性、平行性、そしてリズム感が挙げられます。また、明確な輪郭線を持つ形態的な構造は、神話的で感傷的な印象を鑑賞者に与えます。

苦難に満ちた人生を送ったホドラーの作品には、「死」や「夜」をテーマとしたものが多く見られますが、一方で、女性の肖像画やスイスの風景画などの写実的な作品も数多く残されています。また、意外にも、スイスの紙幣のデザインも担当しており、1911年から1958年まで流通していた第2次銀行券の50フラン紙幣と100フラン紙幣の表裏を手がけました。50フラン紙幣の裏面には、彼の有名な絵画「木を伐る人」が描かれています。

作品

夜 (1889年)
生の疲れ
落胆した魂
ウィリアム・テル (1903年)
木を伐る人

参照

swissinfo「クリムトに匹敵する　ホドラーの世紀末絵画」

外部リンク

* swissinfo「クリムトに匹敵する　ホドラーの世紀末絵画」

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