フェルディナンド・デ・メディチ (大公子)

フェルディナンド・デ・メディチ：芸術を愛したトスカーナ大公子

フェルディナンド・デ・メディチ（1663年 - 1713年）は、トスカーナ大公コジモ3世の長男として生まれました。彼は大公位を継ぐことなく、その生涯を芸術と文化の保護に捧げました。この記事では、彼の人物像と、彼が支援した音楽家や芸術家、そして当時のメディチ家を取り巻く状況について解説します。

生涯

フェルディナンドの家庭環境は複雑でした。両親であるコジモ3世とマルゲリータ・ルイーザは不仲であり、1675年には別居。母マルゲリータは夫を激しく軽蔑し、フィレンツェを離れることを望んでいました。このような家庭環境の中、フェルディナンドは成長しました。

芸術への貢献

フェルディナンドは、叔父のフランチェスコ・マリーアや弟のジャン・ガストーネと同様に、音楽家を積極的に保護しました。プラトリーノのヴィラにはアントニオ・フェッリがデザインした室内劇場があり、そこで頻繁にオペラを上演。バルトロメオ・クリストフォリ、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル、アレッサンドロ・スカルラッティなど、多くの著名な音楽家を招きました。

特に、楽器製作者クリストフォリを1688年に雇い、資金援助を行ったことは重要です。クリストフォリは、この支援を受けて1700年頃にピアノを発明しました。また、スカルラッティはプラトリーノの劇場のために5作以上のオペラを作曲し、フェルディナンドとオペラの詳細について頻繁に書簡を交わしました。1711年には、アントニオ・ヴィヴァルディが協奏曲集『調和の霊感』を彼に献呈しています。

音楽だけでなく、絵画の世界でもジュゼッペ・マリア・クレスピやセバスティアーノ・リッチといった画家を支援しました。彼はまさに、芸術のパトロンとしての役割を果たしたのです。

私生活

フェルディナンドの私生活は、弟ジャン・ガストーネと同様に、同性愛的な傾向があったとされています。プラトリーノのヴィラは、男性の愛人との密会場所としても使われていたようです。1696年にはヴェネツィアのカーニヴァルを訪れた際に梅毒に感染したという説もあります。

1689年、彼はバイエルン選帝侯の娘ヴィオランテ・ベアトリーチェ・ディ・バヴィエーラと結婚しました。ヴィオランテも音楽を愛し、夫を深く愛していましたが、夫婦の間に子供は恵まれず、結婚生活は不幸でした。

メディチ家の危機

コジモ3世は、子供たちに子供ができないという状況に直面し、メディチ家断絶の危機を感じていました。彼は、アンナ・マリーアをジャン・ガストーネの次期大公にしようと奔走しましたが、実現しませんでした。

1713年、フェルディナンドは梅毒により、父コジモ3世に先立って亡くなりました。彼の死は、メディチ家の将来に暗い影を落としました。

フェルディナンド・デ・メディチは、芸術を愛し、その発展に貢献した人物として記憶されています。しかし、彼の生涯は、メディチ家が直面した苦難の時代を象徴するものでもありました。

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