フェルナンド・ソル

フェルナンド・ソル：ギター音楽の巨匠

フェルナンド・ソル（Fernando Sor, 1778年2月13日? - 1839年7月10日）は、スペイン・バルセロナ出身の作曲家、そして卓越したギタリストです。彼は、ギターの表現力を高め、その地位向上に尽力したことで知られ、ギター音楽の黄金期を築いた一人として高く評価されています。特に、コンサート楽器としてのギターのために数多くの楽曲を作曲し、その数は過去200年において傑出しています。

生涯

裕福な家庭に生まれたソルは、当初、軍人になることを期待されていました。しかし、幼少期に触れたオペラの魅力と、父から教わったギターの演奏が彼の人生を大きく変えます。当時、ギターは居酒屋などで演奏される大衆的な楽器であり、オーケストラで使用される楽器に比べて低い地位にありました。

ソルは、モンセラート修道院やバルセロナで音楽を学びましたが、父親の死後、経済的な理由から学業を断念。修道院に戻り、ギターのための初期作品を作曲しました。1797年には、バルセロナで初のオペラ作品『カリプソ島のテレマコ』を上演。

1808年、ナポレオンのスペイン侵攻を機に、愛国的な歌詞をつけたギター曲を多数作曲。しかし、スペイン軍が敗北すると、ホセ・ボナパルト政権下で政府の役職に就きました。1813年、フランス軍の追放に伴い、親フランスとみなされた芸術家や貴族と同様に、ソルもフランス・パリへ亡命。その後、祖国に戻ることはありませんでした。

パリでは、同じスペイン人ギタリストであるディオニシオ・アグアドと親交を深め、共同で音楽活動を行いました。ギター二重奏曲『二人の友』は、アグアドとの共演のために作曲された作品です。パリの芸術家たちに才能を認められたソルは、ヨーロッパ各地を演奏旅行し、名声を確立。1815年頃に滞在したイギリスでは、オペラやバレエの作曲家として名を知られるようになり、1823年にはロシアで、皇帝ニコライ1世の戴冠式のためにバレエ曲『エルキューレとオンファリア』を作曲し、成功を収めました。1827年、パリに定住し、作曲と著述に専念。この時期に、傑作とされる多くの作品や、各国の言語に翻訳された教則本『ギターの方法』（1830年）が生まれました。

1837年に娘が亡くなると、その死を悼んでミサ曲を作曲。娘の死は、病を患っていたソルにとって大きな精神的打撃となり、1839年にパリで生涯を閉じました。彼の遺体は、モンマルトル墓地に埋葬されています。

作風

ソルの作風は、古典派音楽の様式を忠実に受け継いでいますが、後世の批評家からはロマン派音楽の先駆けと見なされることもあります。彼は短調を効果的に用いることを好み、代表作『モーツァルトの「魔笛」の主題による変奏曲』や『グラン・ソロ』にも、その特徴が見られます。また、不協和音を大胆に取り入れ、作品に独特な色彩を与えています。

ハイドンやモーツァルトからの影響も指摘されますが、同時代の作曲家とは異なる独自のスタイルを確立しており、ギター音楽の発展に大きく貢献しました。彼の作品は、現在も定期的に復刻されており、山下和仁による録音全集や、NAXOSによる録音全集などが広く入手可能です。

その他

ソルの楽譜は、フレットの指番号が記載されていないことが多く、演奏者は自分で運指を考えなければなりません。そのため、初中級者にとっては難易度が高く感じられることがあります。これは古典期以前の楽譜に共通する特徴ですが、フランシスコ・タレガやアグスティン・バリオスらの楽譜に指番号が記されているのとは対照的です。ジュリアーニの楽譜と比較しても、ソルの楽譜は指番号が少ない傾向にあり、ギター初心者にとっては難易度が高いと言えるでしょう。

主要作品

オペラ: 『カリプソ島のテレマコ』
バレエ: 『エルキューレとオンファリア』
* ギター曲: 『グラン・ソロ』、『モーツァルトの「魔笛」の主題による変奏曲』、『12の練習曲』、『幻想曲』

フェルナンド・ソルの作品は、ギター音楽の重要なレパートリーとして、今日でも世界中のギタリストに愛奏されています。

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