フォックス・フィルム

フォックス・フィルム・コーポレーション：ハリウッド黄金期の影と光

1915年、ウィリアム・フォックスによって設立されたフォックス・フィルム・コーポレーションは、ハリウッド黄金期を彩った名門映画スタジオの一つです。その歴史は、映画産業黎明期における興行師としての成功から始まり、ハリウッド進出、革新的なサウンド技術の導入、そして巨大企業への合併という劇的な転換を遂げました。本稿では、フォックス・フィルムの興隆と衰退、その軌跡を詳細にたどります。

揺籃期：劇場経営から映画製作へ

ウィリアム・フォックスは、1904年、ブルックリンの映画館経営から事業を始めました。初期の成功を基に、彼は複数の劇場を運営するまでに成長し、主要映画スタジオから映画を仕入れて上映していました。当時、映画産業はモーション・ピクチャー・パテント・カンパニーなどの巨大企業による独占体制が強まりつつありましたが、フォックスは独占禁止法を武器に訴訟を起こし、和解金を得てこの体制に挑戦しました。

映画配給会社「グレーター・ニューヨーク・フィルム・レンタル・カンパニー」設立を経て、1914年には「ボックス・オフィス・アトラクションズ・フィルム・カンパニー」と社名を変更、映画製作にも着手しました。ニュージャージー州フォートリーに最初のスタジオを設立し、1915年には正式にフォックス・フィルム・コーポレーションを設立、本格的な映画製作へと進みました。初期のスタジオはニュージャージー州フォートリーにありましたが、1917年にはカリフォルニア州ハリウッドへと拠点を移しました。より温暖で映画製作に適した気候を求めた結果です。この決断は、フォックス・フィルムの将来を大きく変える転換点となりました。

ハリウッド黄金期：サウンド技術とスターシステム

ハリウッド進出後、フォックス・フィルムは急速に成長しました。セダ・バラら個性的なスターを起用した作品で大きな成功を収め、莫大な利益を上げました。しかし、フォックスの野望はそれだけにとどまりませんでした。彼は、新たな技術革新にも積極的に投資しました。

1920年代後半、映画界を席巻しつつあったトーキーへの対応として、フォックスはムービートーン・サウンド・システムの特許を取得しました。これは、映画に音を直接記録する画期的な技術であり、フォックス・フィルムは「フォックス・ムービートーン」というブランドでサウンド映画を制作、公開し始めました。この技術は、映画産業におけるサウンド映画時代の到来を大きく促進したのです。

1926年には、ハリウッドに大規模なスタジオ「ムービートーン・シティ」を建設。最先端の設備を導入し、大規模な映画製作体制を整えました。ジャネット・ゲイナーなど、数多くのスターを輩出し、ハリウッド黄金期を代表するスタジオとしての地位を確立しました。

衰退と合併：挫折と新たな出発

しかし、フォックス・フィルムの隆盛は長くは続きませんでした。1929年の世界恐慌と、経営権を巡る争いが、フォックス・フィルムを危機に陥れました。ウィリアム・フォックスは経営権を失い、会社は財政難に苦しむことになります。

経営破綻の危機に瀕したフォックス・フィルムは、1935年、20世紀ピクチャーズと合併し、「20世紀フォックス」として新たなスタートを切りました。これは、フォックス・フィルムの歴史における一つの区切りであり、同時に新たな時代の幕開けでもありました。

フォックス・フィルムの遺産：映画史に刻まれた足跡

フォックス・フィルムは、長編映画、ニュース映画、短編映画など、多様なジャンルの作品を制作しました。特にフォックス・ムービートーン・ニュースは、世界的なニュースをいち早く伝える報道機関として、長年にわたって高い評価を獲得しました。しかし、1937年の火災で多くのフィルムが失われたことは、映画史における大きな損失となりました。

フォックス・フィルム・コーポレーションは、その隆盛と衰退を通じて、ハリウッドにおける映画製作の変遷を象徴する存在でした。その歴史は、技術革新、ビジネス戦略、そして人々のドラマが複雑に絡み合った、映画史の一つの重要な章を構成しています。20世紀フォックス、そして現在の20世紀スタジオへと受け継がれたその遺産は、現在も世界中の映画ファンに愛され続けています。

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