フォティオス1世 (コンスタンディヌーポリ総主教)

フォティオス：ビザンティン文化を彩った聖職者と学者

フォティオス（約820年 - 約891年）は、東ローマ帝国を代表する知識人、官僚、そしてキリスト教聖職者でした。コンスタンティノポリス総主教（在位：858年 - 867年、877年 - 886年）として、教会政治の中枢に身を置き、数々の重要な役割を果たしました。正教会では聖人として崇められており、記憶日は2月6日（ユリウス暦使用教会では2月19日）です。

波乱に満ちた生涯

フォティオスは、幼少期から優れた学識を身につけ、帝国大学哲学科の教授を務めるなど、学界で高い評価を得ていました。7世紀の戦乱で散逸した古代ギリシア文献の収集にも尽力しました。851年頃には皇帝直属官僚の尚書局長官に任命され、さらに858年には皇帝ミカエル3世によってコンスタンティノポリス総主教に昇進します。しかし、この任命は、フォティオスが当時俗人であったことから、激しい反発を招きました。

前総主教イグナティオス支持派は、フォティオスの職務への適格性に疑問を呈し、ローマ教皇ニコラウス1世と連携して激しく対抗。863年、ニコラウス1世はラテラノ教会会議でフォティオスの廃位を宣言しました。この対立は、ローマとコンスタンティノポリス教会間の深刻な断絶「フォティオスの分離」と呼ばれる事態に発展します。

867年、ミカエル3世がクーデターで倒れると、後継皇帝バシレイオス1世はローマ教会との関係修復を図り、フォティオスを罷免。イグナティオスを総主教に復帰させました。869年から870年の第4回コンスタンティノポリス公会議でもフォティオスの追放が決定されました。しかし、ブルガリア教会の帰属問題などでローマ教会との関係改善が難航すると、バシレイオス1世は877年にフォティオスを総主教に復帰させるという、驚くべき決断を下しました。879年から880年の教会会議で、フォティオスの復権が認められ、「フォティオスの分離」は終結しました。

しかし、フォティオスの波乱万丈な生涯は、ここで終わらなかったのです。バシレイオス1世の死後、彼の息子であるレオーン6世が皇帝になると、父と対立していたレオーン6世はフォティオスを追放。フォティオスはアルメニアで亡くなりました。

ギリシア古典への貢献

フォティオスは、古代ギリシア古典への深い造詣で知られていました。その博識ぶりは、政敵であるイグナティオス支持派からも認められるほどでした。彼によるギリシア文化の復興は、後の「マケドニア朝ルネサンス」と呼ばれるビザンティン文化の隆盛に繋がる大きな一歩となります。

特に、280冊もの古典に関する書評をまとめた『図書総覧（ビブリオテーケー）』は彼の代表作であり、古代ギリシアの文学、哲学、歴史に関する貴重な情報を後世に伝える重要な文献です。この書物の編纂時期については、845年にアッバース朝宮廷へ使者として派遣された際に編纂されたとする説があり、アッバース朝のギリシア古典翻訳運動の影響を受けた可能性も指摘されています。

フォティオスの遺産

フォティオスは、総主教としての政治的活動、学問への貢献、そしてスラヴ人への宣教支援などを通して、ビザンティン文化の発展に多大な影響を与えました。彼の生涯は、権力闘争、宗教対立、そして学問への情熱が複雑に絡み合った、劇的で興味深いものです。その功績は、現在も高く評価され、東ローマ帝国、ひいてはビザンティン文化の歴史を語る上で欠かせない人物となっています。

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