フォボス2号

フォボス2号は、1988年にソビエト連邦が実施した火星探査計画「フォボス計画」の一環として開発・運用された無人探査機です。同計画では、同型機であるフォボス1号と共に火星とその衛星フォボスの調査を目的としていました。フォボス2号は、特にフォボスへの詳細な接近探査を行う重要なミッションを担っていました。

計画の開始と火星への到達

フォボス2号は、1988年 7月12日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地より、ソ連の主力ロケットであるプロトンロケットに搭載されて宇宙へと打ち上げられました。先に打ち上げられたフォボス1号が、火星に到達する前に通信が途絶えミッションが失敗に終わったのに対し、フォボス2号は順調に飛行を続け、1989年 1月29日に無事火星周回軌道への投入に成功しました。この際、減速のために使用された逆噴射モジュールは、軌道上で本体から分離されました。

探査活動と予期せぬ通信途絶

火星周回軌道に到達した後、フォボス2号はまず火星本体の観測を行いました。その後、計画の主要な目的であった衛星フォボスへの接近探査に移行し、1989年 3月27日にフォボスへの接近を開始しました。当初の計画では、フォボスの表面からわずか50メートル以内まで接近し、そこに2種類の小型着陸機を投下する予定でした。一つは「ホッパー」と呼ばれる移動式の着陸機、もう一つは定点での観測を行う固定式の観測プラットフォームです。これらの着陸機による詳細なデータ取得が期待されていました。

しかし、フォボスへの接近の途上で、探査機に搭載されていたコンピューターに異常が発生しました。この時、フォボス2号はフォボスの撮影を自動運用で行っており、電力消費を抑えるため、また撮影のために機体の姿勢を変更していたため、地球との通信に使用する主アンテナは地球の方向を向いていませんでした。撮影終了予定時刻を過ぎても探査機からの通信が回復しなかったため、地上の管制センターから探査機に向けて緊急のコマンドが送信されました。

その約4時間後、地上はフォボス2号から約17分間にわたる弱い信号を受信することに成功しました。しかし、この時の探査機は制御不能な回転状態に陥っており、高い通信能力を持つ主アンテナではなく、方向を選ばない低利得アンテナでしか通信ができない状態でした。受信したテレメトリデータの解析を試みる間もなく、再び通信は途絶しました。その後、フォボス2号からの信号が再び受信されることはなく、ミッションは予期せぬ形で幕を閉じました。

探査の成果とフォボス2号の現在

通信途絶により、計画されていたフォボスへの詳細な接近探査は実行されず、フォボスに関して得られた知見は極めて限られたものとなりました。フォボス計画全体としては、目覚ましい科学的成果を上げることはできませんでした。

フォボス2号は、その後の1991年にソビエト連邦が崩壊したことにより、結果的にソ連が国家として打ち上げた最後の惑星探査機となりました。

現在、フォボス2号は火星の周回軌道上にあると考えられており、火星の人工衛星、あるいは人工準衛星として公転を続けていると推測されています。

通信途絶に関する憶測

フォボス2号の通信途絶の原因は、公式には搭載コンピューターの故障が最も有力視されていますが、完全な原因究明には至っていません。そのため、単なる機体トラブル以外にも様々な憶測が飛び交いました。一部では、外部からの衝突の可能性や、通信が途絶する直前に探査機が撮影したとされる赤外線写真に写っていたとされる「葉巻型」の未確認物体との関連性が噂されました。この未確認物体については、1991年に火星の衛星フォボスへ、また2014年に火星へと接近した別の未確認物体との関連性が指摘されるなど、憶測が広がりました。ただし、これらは公式な報告に基づくものではなく、あくまで一部で唱えられた説や噂に過ぎません。

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