準衛星

準衛星（じゅんえいせい）は、英語では quasi-satellite と呼ばれ、また擬似衛星（ぎじえいせい）とも称されることがあります。これは、特定の惑星から観察する者にとっては、あたかもその惑星の周りを公転しているかのように見える小さな天体のことを指します。これまでに発見されている準衛星は小惑星がほとんどですが、理論上は彗星のような天体も存在し得ると考えられています。

準衛星の軌道と特徴

準衛星の最も重要な特徴は、その天体が母体となる惑星とほぼ同じ公転周期で恒星（多くの場合、太陽）の周囲を巡っているという点です。この公転周期が一致するため、惑星から見たときには、天体が一定の期間を経て元の位置に戻ってくるように見え、これが惑星を周回しているような印象を与えます。

しかしながら、力学的に見れば、これらの天体は惑星の重力に束縛された衛星ではありません。準衛星は惑星の重力的な影響が支配的な領域であるヒル圏の外側を運動しており、その軌道は惑星ではなく太陽の重力によって主に決定されています。

準衛星の軌道は、一般的に比較的大きな離心率を持つ楕円形をしています。この軌道の特徴として、天体が太陽に最も接近する近日点付近では、惑星よりも速度が速くなり、惑星を追い越すように見えます。この際、惑星の公転軌道の外側に出ます。一方、太陽から最も遠ざかる遠日点付近では、惑星よりも速度が遅くなり、惑星に追い抜かれるように見えます。この際、惑星の公転軌道の内側に入ります。

惑星の公転と共に回転する特殊な座標系からこの動きを観察すると、天体は惑星の周りを巡る細長い楕円軌道を描いているように見えます。しかし、静的な絶対座標系から見ると、天体は惑星から見てほぼ同じ方向に位置しながらも、ごくわずかにずれた軌道で太陽の周囲を回っているに過ぎません。

準衛星と似た軌道を持つ天体

惑星と同じ公転周期を持つ天体として、トロヤ群小惑星が知られています。これらも惑星の公転軌道の近くに位置しますが、惑星から見て特定の方向（ラグランジュ点のうちL4点やL5点）に集まっているという特徴があります。トロヤ群も準衛星と同様に惑星と公転周期を共有しますが、その位置と惑星からの距離が異なるため、準衛星とは区別されます。

既知の準衛星の事例

地球

地球には、2017年現在までに複数の準衛星候補天体が確認されています。(3753) クルースン、(10563) イジュドゥバル、(54509) YORP、(66063) 1998 RO1、(85770) 1998 UP1、(85990) 1999 JV6、(164207) 2004 GU9、(277810) 2006 FV35、2001 GO2、2002 AA29、2003 YN107、2006 JY26、2010 SO16、2012 FC71、2013 BS45、そして (469219) Kamoʻoalewa といった天体などが含まれます。これらの多くは、馬蹄形軌道などと密接に関連した複雑な軌道を取り、数十年から数百年の比較的一時的な期間だけ準衛星として振る舞う性質を持っています。興味深いことに、(66063) 1998 RO1 には衛星 S/2001 (66063) 1 が存在することが知られています。

金星

金星の準衛星としては、2002 VE68 が発見されています。この天体は、過去7000年にわたり金星と1:1の軌道共鳴を維持しており、今後およそ500年間はこの状態が続くと予測されています。また、(322756) 2001 CK32 や 2012 XE133 も金星の準衛星である可能性が指摘されています。

火星

天然の準衛星は確認されていませんが、人工物であるフォボス2号探査機が1989年に火星の軌道に投入されて以降、現在も火星の準衛星として周回していると考えられています。

海王星

海王星の準衛星としては、(309239) 2007 RW10 が発見されています。この天体は元々、海王星のL5トロヤ群小惑星であったと推定されていますが、およそ1万2500年前から準衛星としての軌道に入ったと考えられています。(309239) 2007 RW10 は直径が約247kmと推定されており、これは現在までに発見されている準衛星の中では最大のサイズです。

冥王星

冥王星の準衛星候補としては、(15810) 1994 JR1 が見つかっています。この天体は、他の多くの準衛星がその母体となる惑星の重力によって軌道が安定化されるのと異なり、海王星の比較的強い重力の影響下で現在の軌道が安定して維持されていると考えられています。およそ10万年前からこの軌道にあり、今後約25万年間安定を保つと推定されています。しかし、海王星の強い影響下にある (15810) 1994 JR1 を冥王星の準衛星と見なすかどうかについては、天文学者の間で意見が一致しておらず、その後の観測データに基づいて冥王星の準衛星ではないとする説も提唱されています。

その他

軌道シミュレーションの研究からは、天王星や海王星のような外惑星は、太陽系形成以降の約45億年という長い期間にわたって準衛星を保持し得た可能性が示唆されています。一方で、木星や土星のような巨大ガス惑星の近傍では、準衛星の軌道が安定して維持される期間は、それぞれ約1000万年や約10万年程度と比較的短いと考えられています。しかし、木星や土星にも準衛星が存在することは確認されています。

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