フォリーニョの聖母

『フォリーニョの聖母』は、盛期ルネサンスを代表する画家ラファエロが1511年から1512年頃に描いた油彩画です。聖母子像でありながら、雲に乗って空中に浮遊するという神秘的な描写が特徴的です。現在はヴァチカン美術館の絵画館に所蔵されています。

歴史的背景

この絵画は、ローマ教皇ユリウス2世の侍従シジスモンド・デ・コンティによって、死の直前にラファエロに依頼されました。当初はローマのサンタ・マリア・イン・アラチェーリ教会の高祭壇に飾られ、1512年にはシジスモンドがこの教会に埋葬されています。その後、1565年にシジスモンドの子孫であるアンナ・コンティによってフォリーニョの聖アンナ修道院に移され、2世紀以上にわたってその地に留まりました。これが作品名の由来となっています。

1799年、ナポレオンによってパリに運ばれた際には、板からキャンバスへの移転が行われ、修復作業も施されました。その後、1816年のワーテルローの戦い後、教皇領に返還され、ヴァチカン美術館に収蔵されました。現在では、ラファエロの別の傑作『キリストの変容』と同じ部屋に展示されています。

作品の特徴

本作は、ラファエロがローマで活動していた時期に描かれたもので、その構図、色彩、形態は画家の芸術的な成熟を如実に示しています。画面は上下に分割されていますが、人物の身振りによって一体感が保たれています。これは、『聖体の論議』でも見られる特徴です。聖母マリアは大きな円光を背景に、コントラポスト（身体をひねったポーズ）で描かれています。

洗礼者ヨハネ、アッシジの聖フランチェスコ、聖ヒエロニムス、そして寄進者シジスモンドの頭部は、画面内で半円を形成するように配置されています。聖母マリアは幼子イエスを抱き、雲の上に座り、天使たちに囲まれています。この聖母子のポーズには、レオナルド・ダ・ヴィンチの『東方三博士の礼拝』からの影響が見られます。

シジスモンドは、毛皮で縁取られた赤い外套を身につけ、伝統的な寄進者のポーズで手を合わせています。彼は聖ヒエロニムスに導かれ、聖母に庇護を求めています。画面左側には洗礼者ヨハネが鑑賞者を見つめ、聖フランチェスコは幼子イエスを見つめています。左右の聖人たちの間には、天使が銘板を持って立っており、現実世界と非現実世界を繋ぐ役割を果たしています。背景にはフォリーニョの塔があり、町を覆う半円は虹を表していると考えられます。

背景の解釈

背景に描かれた風景は謎めいており、その意味は確定していません。画面に描かれた火の玉は、シジスモンドの家に落ちた隕石、または落雷であるという説があります。また、シジスモンドがこの絵を依頼したのは、フォリーニョの包囲中に彼の傍で爆発した砲弾から生き延びたことを記念するためであったという説もあります。いずれにしても、彼が自身の救済を天の恵みだと考えていたことは確かでしょう。

天使が持つ銘板には、本来シジスモンドの感謝の言葉が書かれる予定でしたが、彼の死によって空白のままになったとされています。この作品は、UFO墜落の証拠として使用されることもありますが、これは「21世紀のヨーロッパ人の目で別の文化を再解釈しようとする試み」に過ぎないとされています。

『フォリーニョの聖母』は、ラファエロの優れた画力を示すとともに、多くの謎と解釈の余地を残した、魅力的な作品と言えるでしょう。

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