フォード・モデルA (1903)

フォード・モデルA：フォード社の夜明けを告げた一台

1903年、世界は自動車の黎明期を迎えようとしていました。そんな時代に、後の自動車産業を大きく変革する企業、フォード・モーター社が誕生しました。そして、同社が最初に世に送り出したのが、フォード・モデルAです。

モデルAは、1903年7月23日にシカゴの歯科医、アーネスト・ファイニッヒ氏のもとへ、最初の1台が届けられました。生産はデトロイトの簡素な工場で行われ、1903年から翌1904年にかけて、わずか1750台という限られた数が製造されました。このモデルは、後の名車モデルTへと繋がる重要な第一歩であり、フォード社の歴史において記念碑的な存在と言えるでしょう。

モデルAは、2人乗りのラナバウトと4人乗りのトノーモデルが用意され、価格はそれぞれ800ドル、900ドルでした。オプションとして幌の追加も可能でした。搭載された水平対向2気筒エンジンは、8馬力（6kW）の控えめな出力ながら、72インチ（約1.8メートル）のホイールベースと、約562kgの車体を時速45キロまで加速させました。トランスミッションは遊星式で、前進2速と後進2速という、後のモデルTにも受け継がれる特徴的な機構を採用していました。

基本価格は750ドルでしたが、リアトノー（後部座席とリアドア付き）や幌などのオプションを追加すると、価格はさらに上昇しました。リアトノーは100ドル、幌は種類によって30ドルから50ドルの追加料金が必要でした。ブレーキは後輪にバンドブレーキが採用されました。しかし、当時のライバル車であるオールズモビル・カーブドダッシュよりも150ドル高価だったため、販売台数は伸び悩みました。

モデルAの販売開始時、フォード・モーター社の銀行口座残高はわずか223.65ドルしかありませんでした。創業時の投資資金28,000ドルのほとんどを使い果たしていたのです。モデルAの成功は、同社にとって文字通り生き残りをかけた戦いだったと言えるでしょう。そして、このモデルの販売はヘンリー・フォードによる初めての成功事業となり、フォード・モーター・カンパニーの基礎を築き上げました。

フォード社はモデルAを「世界で最も信頼できる機械」と宣伝していましたが、過熱やトランスミッションのトラブルなど、当時の車両によく見られる欠点も抱えていました。ボディカラーは当初赤一色のみでしたが、後にユーザーによって再塗装された車両もあったようです。

モデルAの後継車種であるモデルCが登場すると、モデルAの生産は終了しました。しかし、モデルAの技術的・経営的な成功は、その後のモデルTの開発・生産に大きな影響を与え、世界的な自動車メーカーとしてのフォード社の地位を確立するための重要なステップとなりました。

また、1904年にはモデルAを改良したモデルACも登場しました。モデルACは10馬力のエンジンを搭載し、モデルAよりも大型のラジエーターを備えていました。これらの改良により、モデルAはさらに洗練された車両へと進化していったと言えるでしょう。

モデルAは、数多くの問題を抱えながらも、フォード社の発展に大きく貢献した重要な一台です。その歴史的意義は、今日の自動車産業においても高く評価されています。

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