フォービアン・バワーズ

フォービアン・バワーズ：歌舞伎を巡る光と影

フォービアン・バワーズ（Faubion Bowers, 1917年1月29日 - 1999年11月20日）は、アメリカ合衆国出身の音楽家、そして軍人です。彼は「歌舞伎を救った男」として知られてきましたが、2000年代以降の研究で、その功績には誇張や事実の歪曲が含まれていることが指摘されています。

生い立ちと日本との出会い

バワーズは、チェロキー族の末裔としてオクラホマ州に生まれました。ジュリアード音楽院でピアノを学んだ後、1940年にアジアの音楽研究のため渡航。その途中で日本に立ち寄り、偶然にも歌舞伎座で『仮名手本忠臣蔵』を観劇し、深く感動したといいます。日米開戦直前まで日本に滞在し、歌舞伎に触れました。

GHQ占領下での活動

太平洋戦争終結後、バワーズはGHQのマッカーサーの副官（実際にはボナー・フェラーズ准将の部下）兼通訳として再び来日します。当時、GHQは日本の伝統文化を「封建的忠誠心」の象徴とみなし、特に歌舞伎は軍国主義を助長するものとして廃止を検討していました。しかし、バワーズは歌舞伎の芸術的価値を強く主張し、その存続を訴えました。

バワーズは、GHQ幹部に歌舞伎を観劇させただけでなく、公演の再開を主張し、1947年には『仮名手本忠臣蔵』の上演を実現させました。彼は出演者に「当時最高のもの」を求め、公演を成功に導きました。さらに、サンフランシスコ講和条約締結の年には、アメリカ公演を企画し、「切腹のない判官は歌舞伎ではない」と主張して、国務省の反対を押し切り、完全版の上演にこぎつけました。これらの活動により、歌舞伎は危機を脱し、日本の伝統芸能としての地位を保ちました。

音楽家としての側面

バワーズは音楽家としても活動しており、特にアレクサンドル・スクリャービンの伝記などを著しています。

「歌舞伎を救った男」の虚像

しかし、2000年代に入り、バワーズの功績には誇張や誤りが多く含まれていたことが、複数の研究によって明らかになりました。実際には、歌舞伎班はアール・アーンストを長とする8人編成の部隊であり、検閲作業は全員で行っていました。バワーズは自らを「歌舞伎の救世主」として喧伝し、他のメンバーを不当に貶めていたとされています。

アーンストは、バワーズの嘘に対し、法的手段も辞さないと怒りをあらわにし、「彼のエゴイズムよりも、歴史の事実が曲げられることを懸念する」と述べています。また、マッカーサーの副官という触れ込みも、実際には軍事秘書官であったことが判明しました。

歌舞伎関係者からの批判もあり、河原崎國太郎は「バワーズを歌舞伎再生の恩人だと言う人がいますが、とんでもない」と述べています。さらに、1960年の渡米歌舞伎では、二代目市川猿之助の降板を要求し、配役にも口出しするなど、松竹と対立しました。

谷川建司による反論

一方で、谷川建司は1999年にバワーズにインタビューを行い、1947年の『忠臣蔵』上演はバワーズの功績であると反論しています。バワーズの功績を全面的に否定するのではなく、彼の果たした役割を再評価する動きもあります。

まとめ

フォービアン・バワーズは、歌舞伎の存続に貢献した人物として知られていますが、その功績は必ずしも事実と一致しない部分もあります。彼の活動は、戦後の日本における文化政策や、個人の名声と歴史的真実との間の複雑な関係を示す事例と言えるでしょう。彼の物語は、歴史を多角的に捉えることの重要性を私たちに教えてくれます。

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