フクロギツネ

フクロギツネ（学名：Trichosurus vulpecula、英名：Common Brushtail Possum）は、哺乳綱双前歯目クスクス科フクロギツネ属に分類される、オーストラリア大陸に広く自然分布する有袋類です。ただし、大陸内陸部や西部の乾燥地帯には生息していません。人為的にニュージーランドへも移入され、分布を広げています。

形態

成獣の体長は35～55センチメートル、それに続く尾の長さは25～40センチメートルほどです。体重はオスで1.3～4.5キログラム、メスで1.2～3.5キログラムと幅があります。全身は主に灰色の体毛で覆われますが、腹面は乳白色をしています。体色にはバリエーションがあり、赤色型や黒色型も存在します。分布域によって体色の傾向に違いが見られ、北方の個体群には赤みがかった灰色が多く、南方の個体群は黒みが強い傾向があります。オスの胸部には特有の臭腺があり、そこから出る分泌物によって周辺の毛が赤褐色になることがあります。フクロギツネの最も特徴的な部位の一つが尾です。尾の体毛は黒く、特に腹面にはほとんど毛が生えていません。この構造により、尾を木の枝などにしっかりと巻き付けることが可能で、樹上を移動する際のバランス取りや体を支えるのに役立っています。ピンク色の鼻をしています。後肢の構造も独特で、人差し指と中指にあたる第2指と第3指が途中で癒合していますが、先端には独立した2本の爪があります。親指の爪は比較的小さく目立ちません。

生態

フクロギツネは非常に適応力があり、自然林から都市部の市街地まで様々な環境に生息しています。活動の中心は夜で、昼間は木の洞などで休んで過ごします。特定の巣を作ることはなく、休息場所は適当に見つけます。主な生活圏は樹上ですが、餌を探して地上に降りることもあります。オスは胸や肛門近くの臭腺を使ってマーキングを行い、自分の縄張りを主張します。主な天敵としては、ディンゴやオオトカゲといった捕食者に加え、人間が持ち込んだネコやキツネなどが挙げられます。食性は広範な雑食性で、木の葉や様々な果実、花、昆虫、鳥やその卵、雛など、利用できるものを幅広く食べます。

繁殖

繁殖は胎生で行われ、妊娠期間は16～18日と短いです。一度に産む幼体の数は通常1頭で、稀に2頭の場合もあります。繁殖期は地域や栄養状態によって異なり、オーストラリア北部ではほぼ一年中繁殖が見られますが、南部では主に春と秋に繁殖期を迎えます。生まれた幼体は、他の多くの有袋類と同様に母親の腹部にある育児嚢に入って成長します。育児嚢の中で4～5ヶ月ほど過ごした後、外に出てきます。育児嚢から出た後もすぐに独立するわけではなく、さらに2ヶ月ほどは母親の背中にしがみついて一緒に移動しながら育てられます。性成熟はメスが約1年、オスが約2年で迎えます。フクロギツネの平均的な寿命は6～7年程度で、長くても11年ほど生きるとされています。

人間との関わりと保全

フクロギツネは歴史的に、オーストラリアの先住民アボリジニや入植したヨーロッパ系住民によって食料や毛皮の資源として利用されてきました。現代においては、人里近くにも現れることがあり、餌を求めて人間に慣れる様子が見られます。しかし、家屋の屋根裏に侵入して糞尿で汚したり、庭の植物や果樹に被害を与えたりすることから、一部では害獣とみなされる側面もあります。原産地であるオーストラリアでは、個体数が多い場所でも一般的には保護動物として扱われており、許可なく捕獲することは制限されています。

一方、毛皮利用のために人為的に移入されたニュージーランドでは状況が大きく異なります。現地の捕食者が少ないため爆発的に数を増やし、ニュージーランド固有の植物を食害したり、在来の鳥類を捕食したりして生態系に深刻な影響を及ぼしています。また、ウシの結核を媒介することも問題視されており、ニュージーランドでは積極的に駆除の対象となっています。このため、フクロギツネは有袋類としては唯一、「世界の侵略的外来種ワースト100」リストに含まれており、日本でも「特定外来生物」に指定され、輸入や飼育等が厳しく規制されています。

分類学的には、クイーンズランド州北部や北部準州の個体群を独立した種や亜種として扱うべきか議論されることがあります。IUCNレッドリスト全体としては「軽度懸念（Least Concern）」と評価されていますが、一部の亜種はより保全上の懸念があるとされています。

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