フットマン

フットマン（Footman）

フットマンとは、主にイギリスにおいて貴族や富裕層の家庭で雇われた男性の家事使用人、すなわち従僕のことを指します。

名称の起源とその変遷

フットマンという名称は、彼らがかつて、主人が乗る馬車の側方や後方を徒歩で随行する役割を担っていたことに由来します。この役割は「ランニング・フットマン（Running footman）」あるいは「ペデストリアン（pedestrian）」とも呼ばれました。彼らは主人の馬車が道中の障害物（溝や木の根など）によって不安定にならないよう伴走したり、目的地に到着した際に主人のために先行して準備を整えたりしました。特に地方の領主がロンドンでの議会に出席するために長距離を移動する際に、この役割のフットマンが雇用されました。

この時代のフットマンにとって、足の速さは非常に重要であり、給与は走力に応じて変動しました。さらに、領主たちはフットマンの競走を賭け事の対象とすることもあり、フットマンたちはより高額な報酬を得られる雇い主を見つけるために自身の走力を磨きました。しかし、18世紀中頃になると、道路網の整備が進み、郵便網が発達したことで、このような随行の必要性は薄れていきます。これにより、フットマンたちは公道やクリケット場などで競走や競歩を行い、それが新たな賭け事の対象となりました。観戦しやすいクリケット場での競歩が主流となった時期もありましたが、選手層の薄さから予想が立てやすく、やがて衰退していきました。

フットマンの役割は、元々の馬車随行から徐々に変化しました。動員解除された将校が気に入っていた従卒を個人的な使用人として引き続き雇用する際にフットマンと呼ぶ例が見られるようになり、やがて家庭内で主人の食事の際に立ちながら給仕を行う男性使用人全般を指す言葉としても用いられるようになりました。

召使としてのフットマンの役割と位置づけ

男性の家事使用人は、女性の使用人に比べて維持コストがかなり高くつきました。そのため、フットマンを複数抱えることは富裕層にとって大きな贅沢であり、彼らの存在そのものが雇い主の社会的ステータスを示すシンボルとなりました。フットマンの担う職務は、料理人（コック）やメイド、あるいは執事（バトラー）のように家庭運営に不可欠というわけではなく、主に最も裕福で広大なお屋敷にのみ存在しました。

フットマンは単に仕事を「使う」対象であるだけでなく、「見せる」ための存在でもありました。そのため、外見、特に身長が高いフットマンはそうでない者より優遇され、脚の形が良いことも重視されました。彼らの伝統的な衣装である膝丈の半ズボンにストッキングというスタイルは、こうした外見を強調するものでした。また、フットマンは未婚であることが求められることが多く、比較的若年の男性が就く職務でした。しかし、経験を積むことで執事などの上位の職務へ昇進する機会も存在しました。

大きなお屋敷では、特定の専門的な仕事（例えば銀器の手入れなど）のために専任のフットマンが置かれることもありましたが、一般的には、フットマンは食卓での給仕、玄関や室内のドアの開閉、重い家具や物品の運搬、メイドが掃除しやすいように家具を移動させるなどの補助的な仕事を担当しました。また、主人が客を訪問する際などに、従者（ヴァレット）の役割を兼ねることもありました。

フットマンの階級の中で最も上位に位置するのは「ファースト・フットマン」と呼ばれ、執事が不在の場合にはその職務を代行する役割も担いました。

かつては富裕層の象徴であったフットマンですが、召使や家来の大きな集団を維持できる家庭が少なくなった現代においては、非常に珍しい存在となっています。

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