フットワーク・FA12

フットワーク・FA12：悲運のポルシェエンジンとF1挑戦

フットワーク・FA12は、1991年のF1世界選手権を舞台に、フットワークチームが投入したフォーミュラカーです。設計を手掛けたのはアラン・ジェンキンス。ミケーレ・アルボレートとアレックス・カフィ（後にステファン・ヨハンソンが代役を務める）がステアリングを握りました。しかし、このマシンは、開発段階から幾多の困難に見舞われ、F1の歴史に暗い影を落とすことになります。

ポルシェ3512エンジンの悲劇

シーズンのスタート時、フットワークチームは、ポルシェが開発した3.5リッターV型12気筒エンジン、ポルシェ・3512を搭載したFA11CとFA12を投入しました。しかし、このエンジンは、その重量とサイズ、そして出力不足という深刻な欠点を抱えていました。通常のエンジンとは異なり、クランクシャフトの中央から出力を取るという特殊なパワー・センターテイクオフ方式を採用していたため、サイズが非常に大きく、重量も418ポンド（約190kg）と、同時期のフェラーリやホンダ製V型12気筒エンジンと比較して著しく重かったのです。この重量は、ハンドリングや加速性能に悪影響を及ぼしました。

さらに、このエンジンは信頼性にも欠けていました。ギアボックスを含む駆動系は頻繁にトラブルを起こし、レースを完走することすら困難でした。アメリカGPではカフィが予選落ち、アルボレートはリタイア。ブラジルGPでは両者予選落ちという衝撃的なスタートとなりました。サンマリノGP以降も状況は変わらず、カフィは交通事故で負傷。代役として出場したヨハンソンも苦戦を強いられました。ポルシェエンジンを搭載したFA12は、一度も決勝レースを完走することができず、その競争力の無さを露呈しました。

ポルシェ3512エンジンの問題点は重量だけではありませんでした。パワー・センターテイクオフ方式は油圧系にも問題を引き起こし、イモラでのテストではアルボレートが、モナコGP予選ではカフィが、モノコックとギアボックスが分離するほどの激しいクラッシュを経験。マシンの出火にもつながるなど、深刻な事態を引き起こしました。

コスワースエンジンへの換装とシーズン後半

チームは、ポルシェエンジンの使用を断念。第7戦フランスGPからは、コスワース・DFR V型8気筒エンジンに換装したFA12Cを投入しました。しかし、この変更も容易ではありませんでした。ポルシェエンジン用のギアボックスは、DFRエンジンには適合せず、新たにトランスファーボックスを追加する必要がありました。このトランスファーボックスは頻繁にトラブルを起こし、シーズン後半も完走は稀でした。結果、フットワークチームは年間獲得ポイント0という厳しいシーズンを送ることになりました。

若手ドライバーたちのFA12Cテスト

DFRエンジン搭載後のFA12Cは、テスト走行にも使用されました。その中には、当時F3000で活躍していたアレッサンドロ・ザナルディがおり、彼のF1初ドライブとなりました。また、ドイツF3チャンピオンでメルセデス若手ドライバー育成プログラムの一員だったカール・ヴェンドリンガーも、FA12Cをテスト走行したとされています。

まとめ

フットワーク・FA12は、ポルシェ3512エンジンの抱える深刻な問題、そして、そのエンジン換装による新たな問題発生という、数々の困難に直面したマシンでした。チーム、ドライバーの努力にもかかわらず、結果として厳しいシーズンとなりましたが、F1の歴史において、決して無視できない存在と言えるでしょう。このマシンの経験は、後のF1マシン開発に貴重な教訓を与えたことは間違いありません。その失敗から多くの学びを得て、より優れたマシン開発に繋がるという、F1における技術開発のダイナミックな一面を垣間見ることができる、重要な事例と言えます。

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