フムス (イスラーム)

フムス：シーア派の宗教税

フムス (khums) は、イスラム教シーア派において、純益の五分の一を神に捧げる宗教税です。アラビア語で「五分の一」を意味するこの言葉は、シーア派における重要な宗教的、経済的制度を指しています。クルアーンの記述に基づき、その収益は、神、預言者ムハンマド、ムハンマドの親族、孤児、貧者、旅人へと分配されるとされています。

フムスの分配：歴史的解釈

シーア派では、伝統的にフムスの分配対象を以下の6つに分類してきました。

1. 神（アッラーフ）
2. 使徒（預言者ムハンマド）
3. 使徒の近親者
4. 孤児
5. 貧者
6. 旅人

イマームが存在した時代には、イマームがこれらの対象者にフムスを分配する役割を担っていました。しかし、イマーム不在の時代においては、フムスの分配と徴収方法が重要な論点となりました。

特に、イマームの取り分と、サイイド（預言者ムハンマドの子孫）への分配については、複雑な解釈が歴史的に存在します。イマームの取り分は、神、預言者、その親族への分配が、イマーム自身への分配と解釈されることから生じます。一方、サイイドへの分配は、孤児、貧者、旅人が預言者一族とみなされる解釈に基づいています。

イマーム不在とフムスの現代的役割

イマームが不在となったことで、高位の法学者たちがフムスの徴収と管理を行うようになりました。彼らは、一般信徒からフムスを徴収し、モスクの維持、宗教教育、慈善活動など、様々な宗教活動の財源として活用しています。そのため、フムスは現代シーア派社会においても重要な経済的基盤となっています。

フムスの歴史的影響

歴史研究によれば、オスマン帝国時代、シーア派の聖地への巡礼収入と合わせ、フムスは莫大な富を生み出しました。その規模は、カージャール朝（イラン）の国家予算の数倍から10倍以上に達したとも言われています。これは、フムスがシーア派社会だけでなく、政治経済にも大きな影響を与えていたことを示唆しています。

フムスと他の宗教税との比較

フムスは、イスラム教における他の宗教税であるザカート（喜捨）としばしば比較されます。ザカートは、一定の基準を満たしたイスラム教徒が、所有財産の一部を貧困者などに寄付する義務を課せられた税金です。フムスとザカートはどちらも宗教的な義務ですが、対象となる収入や分配方法、徴収方法などが異なります。フムスは、純益の五分の一という明確な割合が定められており、シーア派独自の宗教税と言えるでしょう。

まとめ

フムスは、シーア派における重要な宗教税であり、その歴史と社会への影響は非常に大きいです。クルアーンの記述に基づきつつも、時代とともにその解釈と運用方法は変化してきました。現代においても、フムスはシーア派社会の経済的、宗教的基盤として重要な役割を担っています。その歴史的背景と現代における役割を理解することは、シーア派文化を理解する上で不可欠です。

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