フューチャーセンター

フューチャーセンターとは

フューチャーセンターは、企業、政府、自治体などの組織が、中長期的な課題解決、オープンイノベーション、ソーシャルイノベーションを目的として設立する施設です。多様な関係者が集まり、対話を通じて新たなアイデアや問題解決手段を見つけ出し、相互協力の下で実践することを支援します。施設内には、研修スペース、学習スペース、ミーティングスペースなどが設けられています。

フューチャーセンターは施設そのものを指し、そこで行われる会議やワークショップは「フューチャーセッション」と呼ばれます。

フューチャーセンターの概要

フューチャーセンターは欧州発祥で、1996年にスウェーデンの保険会社スカンディア社が設立したのが始まりです。その後、ヨーロッパの重電機メーカーABB、オランダ政府、デンマーク政府などが開設し、現在では世界各地に約20か所存在します。

フューチャーセンターには、所属組織や立場の異なる多様な人々が集まります。異なる省庁の職員、企業人、市民などが集まり、普段の組織内では構築できないような関係性を形成し、横断的な対話を通じて意思決定や理解の共有を行います。

その目的は、参加者の創造性を発揮させ、従来の枠組みでは解決が難しい現代の複雑な課題を解決することにあります。例えば、地球環境問題への対応や、企業や業界の枠を超えたイノベーションなどは、普段と同じメンバーと会議室に集まっても、斬新な発想やアイデアを生み出すことは困難です。そこでフューチャーセンターという場を設け、集合知を形成し、新たな知を創造しようとする試みが生まれてきました。

扱われるテーマは多岐にわたり、行政分野では政策立案、民間分野では事業戦略策定や製品開発などが挙げられます。オランダ政府のフューチャーセンター「カントリーハウス」では、省庁の枠組みを超えて社会や地域の問題解決に必要な支援やリソースの配分について議論されます。ABBのフューチャーセンターでは、社内外の異なる技術領域や職能の人材を集め、交流の場を提供し、そこから生まれたアイデアを基にプロジェクトを立ち上げ、ビジネス化を支援するインキュベーターとしての役割も担っています。

これらの目的を達成するため、フューチャーセンターの空間デザインには様々な工夫が凝らされています。日常的な感覚から人々を解放するために遊びの要素を取り入れたり、多様なテーマに対応できるよう天井や壁、床を移動させてレイアウトを柔軟に変更できるようにしたりしています。

また、フューチャーセッションでは、ファシリテーターと呼ばれる対話の誘導者が参加者間の対話を促進する役割を担うことが一般的です。近年では、フューチャーセッションの開催場所としてコワーキングスペースが活用されることもあります。

日本におけるフューチャーセンター

日本では、フューチャーセンターはKIRO株式会社の登録商標です。内閣府経済社会総合研究所は、フューチャーセッションのファシリテーターに近い概念として「交流型イノベータ」を提唱しています。

企業では、2007年に富士ゼロックス（現:富士フイルムビジネスイノベーション）、2009年に東京海上日動システムズがフューチャーセンターを開設しました。その後、富士通エフサスやコクヨなど、フューチャーセンターを設置する企業が増加しています。また、企業間フューチャーセンターのような、複数の企業が合同でフューチャーセッションを開催する取り組みも存在します。

教育機関では、奈良県立桜井高校がフューチャーセッションを開催しています。静岡県立島田商業高等学校は、地域住民に開かれた形で運営からファシリテーションまでを生徒自身が実施している、全国で唯一の高校です。

大学では、2011年に静岡県立大学経営情報学部国保祥子研究室が地元企業の支援を受け、国内初の大学生運営によるフューチャーセンターを設立しました。その後、静岡大学、東京大学、岐阜大学、岡山大学、徳島大学、上智大学、京都産業大学など、多くの教育機関でフューチャーセッションが開催されるようになり、その数は増加傾向にあります。

オープンイノベーションとソーシャルイノベーション

フューチャーセンターでの対話の取り組みを新規事業開発やマーケティングのプロセスに組み込むことで、社会起点のオープンイノベーションを達成し、企業のイノベーションにつなげることが期待できます。また、エレクトロニクス、化学、自動車メーカーなど、業種を超えたフューチャーセッションを行うことで、新しい発想や気づきを得ることができます。

フューチャーセンターは、参加者の自己変革の起点となり、社会的な課題をテーマにすることで、将来のステークホルダーとのつながりを生み出します。社会起業家をフューチャーセッションに招くことで、ソーシャルイノベーションを促進することも可能です。ソーシャルビジネスに代表されるように、社会問題や環境問題を事業によって解決することは、イノベーションとビジネスにおける重要なテーマとなっています。

フューチャーセンターウィーク

毎年5月末から6月初旬にかけては、「フューチャーセンターウィーク」として、フューチャーセッションを集中的に開催することが慣例となっています。2012年には、約2週間で計70セッション、延べ参加者数約3,000人という実績を記録し、日本社会に大きなインパクトを与えました。

他のイベントとの差異

フューチャーセンターと類似のイベントとしては、IT勉強会、ハッカソン、異業種交流会などが挙げられます。IT勉強会とハッカソンは、技術を中心に課題解決や創造を目的とする点で共通していますが、欧州を起源とするフューチャーセンターとは異なり、IT企業が集積するシリコンバレー発祥の文化です。異業種交流会は、交流と人脈作りを目的とし、アウトプットを重視しない点でフューチャーセンターとは異なります。

製造業におけるQCサークル活動（カイゼン活動）と比較されることもありますが、QC活動は課題解決型であり、改善によって不具合を減らし、効率化やコスト削減を目指します。一方、フューチャーセッションは価値創造型であり、新しい製品やサービスを生み出すことを目的とすることが多いため、両者は区別して考える必要があります。

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