フランク・ネルソン・コール

フランク・ネルソン・コール（Frank Nelson Cole）は、1861年 9月20日にアメリカ合衆国マサチューセッツ州アッシュランドで生を受けた数学者です。彼の生涯は、教育者としての道を歩み、数学の研究に深く没頭するとともに、アメリカの数学界における重要な組織運営にも貢献したものでした。

コールは、優れた学才を示し、名門ハーバード大学で学びました。大学を卒業した後、1885年から1887年にかけて母校であるハーバード大学で教鞭を執り、教育者としてのキャリアをスタートさせました。その後、活動の場を移し、ミシガン大学やコロンビア大学といった著名な高等教育機関で数学を教え、多くの学生たちを指導しました。

彼のキャリアにおけるもう一つの大きな柱は、アメリカ数学会（AMS）での活動です。コールは1895年から1920年までの四半世紀にわたり、AMSの事務局長という重責を務めました。この長期にわたる在任期間中、彼は学会の組織運営、発展、そしてアメリカにおける数学研究の振興に多大な貢献をしました。学会誌の発行や会議の運営など、多岐にわたる事務を統括し、アメリカの数学コミュニティの基盤強化に尽力したのです。

コールの数学者としての業績の中で、最も劇的なエピソードとして語り継がれているのが、1903年にニューヨークで開催されたアメリカ数学会での発表です。この場で彼は、当時数学者たちの関心を集めていたメルセンヌ数 M67 = 2⁶⁷ − 1 の因数分解に関する発表を行いました。メルセンヌ数とは、2のべき乗から1を引いた形の数のことで、M_p = 2^p − 1 の形をとります。pが素数である場合、M_pも素数になる可能性があるため、素数探求の対象となっていました。M67については、フランスの数学者エドゥアール・リュカが1876年に素数ではない（つまり因数を持つ）ことを証明していましたが、その具体的な因数が何であるかは特定できていませんでした。

コールは、この未解決問題に対する解答を携えて壇上に上がりました。その発表方法は、極めてユニークで印象的なものでした。彼は聴衆の前で一言も発することなく、まず黒板にM67の巨大な値、すなわち

`147,573,952,589,676,412,927`

を丁寧に書き出しました。続いて、黒板の別のスペースに移動し、二つの数、`193,707,721` と `761,838,257,287` を書き出し、それらの積を求め始めたのです。コールは淡々と、しかし確実に手計算を進めていきました。聴衆は固唾を飲んで見守る中、約1時間後、その計算結果が黒板の最初に書かれたM67の値と完全に一致することが示されました。無言のまま全てを終えたコールは、静かに自席に戻りました。

一瞬の間を置いて、会場は割れるような拍手喝采に包まれたといいます。この簡潔かつ力強いパフォーマンスは、単なる数値の提示を超えた、数学的真実の発見が持つ感動を見事に表現していました。後にコールは、この因数を発見するために「毎週日曜日、3年間」を費やしたと述べています。この言葉は、数学における発見がいかに地道で根気強い努力の積み重ねの上に成り立っているかを示唆しています。

フランク・ネルソン・コールは、1926年 5月26日にニューヨーク市で64年の生涯を閉じました。彼の数学への貢献、特にAMS事務局長としての功績を称え、アメリカ数学会は彼の名を冠した「コール賞」（Cole Prize）を設立しました。この賞は、代数学分野と数論分野における優れた業績に対して贈られ、今日まで多くの著名な数学者たちが受賞しています。コール賞は、フランク・ネルソン・コールという数学者の名前が、彼の没後も数学界において重要な意味を持ち続けている証です。

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