フランク・ロイド・ライトに捧げる歌

サイモン&ガーファンクルが1970年初頭に発表した、彼らの活動における金字塔ともいえるアルバム『明日に架ける橋』。その収録曲の中でも、特に異彩を放つ一曲が「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」です。原題は「So Long, Frank Lloyd Wright」。このタイトルが示唆するように、楽曲は20世紀アメリカ建築界の巨匠、フランク・ロイド・ライト（Frank Lloyd Wright, 1867-1959）に敬意を表したものです。しかし、単なる人物賛歌に留まらない、より個人的な、そして彼らの関係性の終焉を予感させる深いメッセージが込められているとも解釈される、多層的な作品と言えるでしょう。

楽曲が誕生した背景には、グループの一員であるアート・ガーファンクルの個人的な情熱がありました。ガーファンクルは、サイモン&ガーファンクルの活動以前、コロンビア大学で建築学を専攻しており、フランク・ロイド・ライトの業績に対して強い敬意を抱いていました。彼自身が後にインタビューなどで明かしているように、この曲は、ガーファンクルが旧知の仲でありソングライターであるポール・サイモンに対し、「敬愛するライトについての歌を書いてほしい」と直接的に依頼したことによって生まれたものです。ここで興味深いのは、依頼を受けた側のポール・サイモンが、ガーファンクルから依頼されるまで、フランク・ロイド・ライトという人物についてほとんど知識を持っていなかったという事実です。それでもサイモンは、ガーファンクルの熱意に応え、彼の要望通りに見事にこの楽曲を書き上げました。このエピソードは、二人の間のユニークな関係性、そしてガーファンクルのライトへの深い思い入れを物語っています。

楽曲のサウンドは、軽やかで洗練された雰囲気を纏っています。曲の構成、特にギターのアルペジオやフルートの柔らかな響きからは、ボサノヴァ音楽からの強い影響が感じられます。静かで内省的なメロディラインと、控えめながら心地よいリズムセクションが一体となり、独特の空間を創り出しています。それは、偉大な建築家の静謐な作品世界を音で表現したかのようでもあります。

この曲のメインボーカルは、建築学徒であったアート・ガーファンクルが担当しています。彼の透明感あふれる歌声が、曲の抒情的な旋律を美しく紡ぎ出しています。しかし、楽曲のブリッジ部分（中間部分）では、ソングライターであるポール・サイモンがボーカルを執っています。このボーカルのスイッチは、この曲が単にフランク・ロイド・ライトへのオマージュとしてだけでなく、二人の関係性における何らかのメッセージを含んでいるのではないかという解釈を生む要因の一つとなっています。実際、この「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」は、同じアルバムに収録され、しばしばポール・サイモンからアート・ガーファンクルへの別れの歌と解釈されることの多い「ニューヨークの少年」と同様に、サイモンとガーファンクルというデュオの、当時既に現実味を帯びていた解散、すなわちメンバー間の別離を暗示した楽曲であるという見方が根強く存在します。

楽曲は、「So long」（さようなら）という言葉が繰り返し歌われる中で、徐々に音量を下げていく、いわゆるフェイドアウトの手法で閉じられていきます。この反復される別れの言葉は、文字通りフランク・ロイド・ライトの生涯への惜別を表していると同時に、より個人的なレベルでの、ガーファンクルへの、あるいは二人のデュオとしての活動への別れを象徴しているかのようです。そして、このフェイドアウトが進行する最中、突如としてポール・サイモンの、どこか感情的で思い詰めたような声が挿入されます。「So long already, Artie! （さようならはもう十分だ、アーティ！）」と叫ぶこの一節は、長々と繰り返される別れの言葉、そしておそらくは現実の別離の状況に対する、サイモン自身の複雑な感情や苛立ちを表していると解釈されています。この唐突な叫び声は、曲全体の静かで美しい雰囲気とは対照的であり、サイモンとガーファンクルの、音楽的な調和とは裏腹の、困難な関係性を象徴的に映し出していると言えるでしょう。この一見不協和音のような要素こそが、この曲に単なるオマージュを超えた、深い人間的なドラマを感じさせる所以なのかもしれません。

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