フランコ・グッリ

フランコ・グッリ（Franco Gulli, 1926年9月1日 - 2001年11月20日）は、20世紀後半に国際的に活躍したイタリア出身の傑出したヴァイオリン奏者です。彼のキャリアは、ソリスト、室内楽奏者、そして教育者として多岐にわたり、ヴァイオリン音楽の世界に大きな足跡を残しました。

トリエステに生を受けたグッリは、早くから音楽の才能を示しました。最初の音楽教育は、ヴァイオリニストであった父から受けたものです。父自身も高名な教師であるオタカール・シェフチークやヤン・マルジャークに師事した経験を持っていました。父の手ほどきを受けた後、グッリは専門的な音楽教育の道を歩みます。彼はまず地元のタルティーニ音楽院で学び、さらに高名なキジアーナ音楽院に進みました。キジアーナ音楽院では、アリゴ・セラートに師事し、ヴァイオリン演奏の技術と芸術性を磨きました。また、伝説的なヴァイオリニスト、ヨーゼフ・シゲティからも教えを受ける機会に恵まれ、その音楽的視野を広げました。これらの学びの経験が、グッリの後の輝かしいキャリアの基盤を築いたのです。

第二次世界大戦後、フランコ・グッリは演奏家としてのキャリアを本格的に始動させます。彼はイタリア国内の著名なアンサンブルで活動しました。「イ・ポメリッジ・ムジカーリ」や「ローマ合奏団」といった団体で主要なメンバーとして演奏し、その実力を示しました。特にローマ合奏団との活動は、彼の国際的な名声を高める上で重要な役割を果たしました。彼は同合奏団のソリストとして世界各地を巡り、1962年にはその一員として初めて日本を訪れています。この初来日は、日本の音楽ファンにグッリの演奏を知らしめる機会となりました。

彼の演奏家としての業績の中でも特筆すべきものの一つに、ニコロ・パガニーニのヴァイオリン協奏曲第5番の歴史的な初演への関与があります。この協奏曲は未完成のまま残されていましたが、フェデリコ・モンペリオによって補筆されました。グッリは1959年、ルチアーノ・ロサーダと共に、シエナでこの補筆版の初演を行い、失われた作品を現代に蘇らせる上で重要な役割を果たしました。

フランコ・グッリはソリストとしてだけでなく、室内楽奏者としても深い情熱を持っていました。彼はピアニストである妻のエンリカ・カヴァッロと長期にわたりデュオを組み、数多くの演奏会や録音を行いました。夫妻のデュオは、息の合った緊密なアンサンブルで知られ、特にモーツァルトやベートーヴェンのソナタの演奏は高く評価されました。また、グッリはヴィオラ奏者のブルーノ・ジュランナ、チェロ奏者のジャチント・カラミアといったイタリアを代表する音楽家たちと共に「イタリア弦楽三重奏団」を結成しました。この三重奏団は、弦楽三重奏のレパートリーにおいて権威ある演奏団体として国際的に認められ、グッリはここでアンサンブルにおける自身の技量を遺憾なく発揮しました。

グッリは演奏活動と並行して、教育者としても多大な貢献をしました。彼は自身の母校であるキジアーナ音楽院や、スイスのルツェルン音楽院などで後進の指導にあたりました。1972年には、アメリカ合衆国にある著名な音楽教育機関、インディアナ大学の教授に就任し、そこで長年にわたり多くの才能あるヴァイオリニストを育成しました。彼の指導は厳格かつ情熱的であり、世界中から集まった学生たちに影響を与えました。日本との関わりも深く、東京音楽大学でもマスタークラスを開講し、日本の若手演奏家たちにも貴重な教えを授けています。

晩年はアメリカに拠点を置いており、2001年11月20日にインディアナ州ブルーミントンにて75歳でその生涯を閉じました。フランコ・グッリは、その卓越したヴァイオリン演奏、室内楽への献身、そして教育者としての情熱を通じて、クラシック音楽界に永続的な影響を与えた音楽家として記憶されています。彼の残した録音は、今も多くの音楽愛好家に聴かれ続けています。

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