フランコ・モディリアーニ

フランコ・モディリアーニ（Franco Modigliani、1918年6月18日 - 2003年9月25日）は、イタリアのローマに生まれ、後にアメリカ合衆国に帰化した著名な経済学者です。特に個人の消費行動や企業財務の理論において、現代経済学に多大な影響を与え、その功績により1985年にノーベル経済学賞を受賞しました。

モディリアーニは1918年にローマで生を受けました。17歳でローマ大学に入学し、学業を修めました。しかし、1930年代後半のイタリアではファシスト政権が台頭し、1938年から1939年にかけて人種法が制定されるなど、ユダヤ系の人々に対する迫害が強まっていました。ユダヤ系であったモディリアーニは、この状況を避けるため、1939年にイタリアを離れる決断をしました。同年、パリでSerenaと結婚し、その後アメリカへの移住を果たしました。

アメリカに渡ったモディリアーニは、学術の道を歩み始めます。1942年から1944年にかけて、コロンビア大学とバード・カレッジで経済学と統計学を教えました。1944年にはニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチから社会科学博士号（D.Soc.Sci.）を授与され、経済学者としての基礎を確立しました。1946年にはアメリカ合衆国の市民権を取得し、アメリカ人として本格的な研究・教育活動を展開しました。

その後、1948年にはイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で教鞭を取り、1950年代から1960年代初めにかけてはカーネギーメロン大学の教授として活躍しました。そして1962年からは、マサチューセッツ工科大学（MIT）のスローン・スクールに移り、終身教授（Institute Professor）を務めることになりました。MITは世界有数の研究機関であり、ここでモディリアーニは多くの重要な研究成果を発表し、後進の指導にもあたったのです。

モディリアーニの主要な業績としては、いくつかの画期的な理論が挙げられます。その一つが、1954年に発表された「ライフサイクル仮説」です。これは、個人の消費行動や貯蓄のあり方に関する理論であり、当時の主流であったケインズの消費理論（消費はその時点の所得に規定される）に対して新たな視点を提供しました。ライフサイクル仮説では、個人は生涯にわたる所得の予想に基づいて、現在の消費や貯蓄の計画を立てると考えます。つまり、一時的な所得の変動よりも、生涯を通じた「恒常所得」の見込みが、反省的に現在の消費水準を決定する要因となるというものです。この理論は、家計の貯蓄行動や経済全体の貯蓄率の分析に大きな貢献をしました。

もう一つの極めて重要な業績は、カーネギーメロン大学在職中の1958年に、マートン・ミラーと共同で発表した「モディリアーニ＝ミラーの定理（MM定理）」です。これは企業財務に関する理論であり、特定の条件下においては、企業の資本構成（資金調達を株式の発行によって行うか、あるいは借入によって行うか）がその企業全体の価値に影響を与えないことを証明したものです。この定理は、企業金融論における最も基本的な命題の一つとされており、その後の研究に多大な影響を与えました。ただし、この定理が成り立つためには、情報コストや取引費用がない、税金が存在しない、完全資本市場であるといった理想的な条件が必要であり、現実世界との乖離も指摘されつつ、理論の出発点として現在も重要視されています。

これらの主要な業績に加え、モディリアーニは1944年に賃金固定モデルも発表しており、マクロ経済学の分野においても初期から重要な貢献を行っていました。

モディリアーニは学術界におけるリーダーとしても活躍しました。1976年にはアメリカ経済学会の会長を務め、学術交流や政策提言にも尽力しました。1985年には、長年の研究成果、特に「金融市場と家計の貯蓄に関する先駆的な分析」が評価され、ノーベル経済学賞を受賞しました。同年にはMITからJames R. Killian Faculty Achievement Awardも受賞しています。

フランコ・モディリアーニは、2003年9月25日にマサチューセッツ州ケンブリッジで、85歳でその生涯を終えました。彼の提唱したライフサイクル仮説やモディリアーニ＝ミラーの定理は、現代経済学の教科書に必ず登場する理論であり、その研究は今日に至るまで多くの経済学研究者に影響を与え続けています。彼の業績は、マクロ経済学における消費行動の理解や、企業金融における資本構成の理論に革新をもたらし、実社会の金融・経済政策にも示唆を与えました。

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