フランソワ＝アンリ・クリコ

フランソワ＝アンリ・クリコ

フランソワ＝アンリ・クリコ（François-Henri Clicquot, 1732年 - 1790年5月24日）は、18世紀後半のフランス王国で最も重要なオルガン製作者の一人です。彼の家系は代々オルガン製作に携わっており、父のルイ＝アレクサンドル・クリコ、そして祖父のロベール・クリコもまた、高名なオルガン製作者としてその名を残しています。フランソワ＝アンリは、この偉大な伝統を受け継ぎ、自身の技術を確立しました。

パリに生まれたフランソワ＝アンリは、父の工房でオルガン製作の技術を学びました。父ルイ＝アレクサンドルの死後、彼は家業であるオルガン製作工房を継承し、その卓越した技量によって事業をさらに発展させていきました。

彼の工房が手掛けた仕事の中でも、特筆すべきはパリのノートルダム大聖堂に設置されたオルガンです。これは、大聖堂にとって初めての、そして非常に注目に値するオルガンとなりました。この楽器は、後に19世紀の巨匠アリスティド・カヴァイエ＝コルによって大幅な改修と拡張が施されますが、クリコが製作したオリジナルのパイプの一部はそのまま再利用され、今日までその響きを伝えています。特に足鍵盤（ペダル鍵盤）に関連する部分のパイプは、クリコの手によるものとして、現在も演奏で聞くことができるとされています。

クリコはノートルダム大聖堂の他にも、数々の著名な教会でオルガンの建造や再建に携わりました。1758年にはサン＝ジェルヴェ教会のオルガンを再建し、その技術力の高さを証明しました。さらに、パリのサン＝シュルピス教会やサン＝ニコラ＝デ・シャン教会（こちらも後年、カヴァイエ＝コルによる重要な改修が行われています）といった主要な教会、あるいは地方の教会であるスヴィニーやポワティエのサン＝ピエール大聖堂など、フランス全土にわたりその作品を残しています。これらのオルガンは、当時のフランスにおけるオルガン製作の最高水準を示すものとして評価されています。

パリで精力的に活動を続けていたフランソワ＝アンリ・クリコですが、サン＝ジェルマン・ロクセロワ教会のオルガンを完成させる直前に、惜しまれつつこの世を去りました。彼の突然の死により、建設中のオルガンは未完の状態となりましたが、その意志は息子のクロード＝フランソワ・クリコに引き継がれました。クロード＝フランソワは父が残した仕事を完成させ、このオルガンは父の没後、1791年3月7日に無事披露されました。クリコ家のオルガン製作の伝統は、このようにして次の世代へと受け継がれていったのです。

フランソワ＝アンリ・クリコは、彼の作品を通じて18世紀フランスのオルガン音楽文化に多大な貢献をしました。彼の製作したオルガンは、その美しい響きと精巧な機構によって称賛され、後世のオルガン製作者たちにも大きな影響を与えました。彼の名と業績は、フランスのオルガン史において重要な地位を占めています。

もう一度検索