フリッツ・フォン・ダルデル

フリッツ・ルドヴィグ・フォン・ダルデル（Fritz Ludvig von Dardel、1817年 3月24日 - 1901年 5月27日）は、スイスに生まれ、後にスウェーデンで国王カール15世の側近として重要な役割を果たした人物です。彼は単なる武官や侍従にとどまらず、画家、イラストレーター、そして優れた著作家としてもその才能を発揮しました。

ダルデルは、1817年にスイスのヌーシャテルで生を受けました。彼の父ジョルジュ＝アレキサンドル・ダルデル（1775-1863）は、スイスの由緒あるダルデル家の一員であり、軍人としてスウェーデンに移り住んだ後、1810年にスウェーデン貴族に叙せられています。母はスウェーデンの貴族であるヘドヴィグ・ソフィア・シャルロッタ・アマリア・ルーヴェンハウプトでした。フリッツは、両親の間に生まれた8人の子供たちのうち、5人の息子と3人の娘の中で4番目の息子でした。

彼のキャリアは軍から始まりました。16歳で士官候補生となり、1837年には少尉に任官。着実に昇進を重ね、1862年には陸軍中佐にまで至りました。その間、1850年からは当時の皇太子であったカール15世（1826-1872）の副官を務め、後の国王との深い繋がりを築きました。また、1858年から1862年にかけては、パリに駐在する外交機関の武官として、国際的な経験も積んでいます。

1859年にカール15世が即位すると、ダルデルはさらに重用されることになります。1864年からは国王の侍従として、常にその傍らに仕えました。同年には、国家の重要な機関である建築監督省の長官に就任し、さらにスウェーデン王立美術院の会長にも選ばれるなど、文化・芸術分野でも指導的な立場に立つことになります。すでに1861年には王立美術院の名誉会員に選ばれており、その芸術的識見が高く評価されていたことがうかがえます。1867年からは、約四半世紀にわたりスウェーデン国立美術館の理事会議長を務めるなど、スウェーデンの文化行政に多大な貢献をしました。彼はまた、ヨーロッパ各地やアメリカのフィラデルフィアで開催された国際博覧会における美術展覧会で、審査員を務めるなど、国際的な舞台でも活躍しました。

芸術家としてのダルデルは、パリで著名な画家レオン・コニエやウジェーヌ・ラミに師事しています。特に水彩画を得意とし、国王に随行した各地でその風景や出来事を記録として描きました。また、当時の雑誌には彼の風刺画も寄稿されており、社会や人々に対する鋭い観察眼とユーモアのセンスを持っていたことがわかります。

その功績は国内外で認められ、スウェーデン剣勲章、デンマークのダンネブロ勲章、フランスのレジオンドヌール勲章（コマンドール級）をはじめ、多くの勲章を受章しています。

ダルデルの遺した最も重要な遺産の一つは、彼の回顧録『思い出（Minnen）』です。彼は少年時代から詳細な日記をつけており、その記録は彼の死後、息子たちの手によってフランス語からスウェーデン語に翻訳され、1911年から1913年にかけて全4巻として出版されました。この『思い出』は、19世紀半ばから後半にかけてのスウェーデン王宮における生活、政治、文化に関する第一級の歴史資料として、今日でも高く評価されています。

フリッツ・フォン・ダルデルは1901年 5月27日、ストックホルムで生涯を閉じました。彼の孫であるニルス・ダルデル（1888-1943）もまた、ポスト印象派の画家として知られています。

ダルデルの生涯は、軍務、宮廷奉仕、文化行政、そして芸術活動と、多岐にわたる分野で顕著な足跡を残したことを示しています。特に彼の残した記録は、当時のスウェーデンの社会や宮廷文化を知る上で欠かせないものとなっています。

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