フリースラント・フランク戦争

フリースラント・フランク戦争：ライン川河口地帯を巡る2世紀の戦い

7世紀から8世紀にかけて、フランク王国とフリースラント（フリース人）の間で、フリースラント・フランク戦争と呼ばれる一連の戦争が勃発しました。この戦争は、ライン川河口地帯の支配権を巡る争いを中心に、宗教対立や民族間の抗争といった複雑な要素が絡み合った、長く激しい闘争でした。

戦争の背景：民族移動と勢力圏

民族大移動後のネーデルラント地方には、様々な民族が混在していました。北西部にはフリース人、東部にはザクセン人、ライン川河口域にはヴァルニ族、そして南部のスヘルデ川付近にはフランク人が居住していました。メロヴィング朝を頂点とするフランク王国は、北ガリアの覇権を握り、フリース人との国境を接していました。

フリース人は複数の小部族から成り、緩やかな連合体でした。統一された中央政府はなく、戦争時には王を選出して対応していました。フリースラント王国は7世紀後半に最盛期を迎え、南方のフランク領にも影響力を及ぼしました。一方、ヴァルニ族については記録が少なく、フランク人とフリース人の勢力に挟まれて滅亡したと考えられています。

ライン・デルタをめぐる攻防：優勢と逆転

フランク王国のキルペリク1世治世（561年-584年）は、フランク側の記録によれば「フリース人とスエビ族による恐怖の時代」とされています。実際、600年頃にはフリース人がフランク王国に勝利したことを記念する硬貨が見つかっています。フランク王国内部の混乱も手伝って、フリース人の勢力は南へと拡大しました。

しかし、ダゴベルト1世によるフランク王国の再統一（630年頃）以降、情勢は変化します。ダゴベルト1世はライン川以南を再征服し、フリースラントにキリスト教を布教し、ユトレヒトに教会を建設しました。しかし、彼の死後フランク人の支配は弱まり、ライン・デルタ中央部は再びフリース人の手に渡りました。

フリースラント王アルドギスルは、ローマ時代の国境要塞をめぐってフランク王国の宮宰エブロインと対立しましたが、巧みな戦略でフランク軍の侵攻を撃退しました。しかし、ピピン2世の時代（690年代）、ドレスタットの戦いでアルドギスルの後継者レッドボッドが敗北。フランク人はドレスタットやユトレヒトなどを奪還しました。この頃、聖ウィリブロルドがフリースラントに司教区を設置しています。興味深いことに、ピピン2世の長男とレッドボッドの娘は結婚しています。

レッドボッドの死後、フリースラント王国の後継者には混乱が生じ、カール・マルテルの侵攻を受けました。フリース人は抵抗しきれず、カール・マルテルはライン川を越え、フリー川まで征服しました。

フリースラント王国の滅亡とフランク人の支配

733年、カール・マルテルはボーン川の戦いでフリース人を破り、フリースラント王国は滅亡しました。フランク人はフリース人の異教の神殿を破壊し、大量の戦利品を持ち帰りました。この勝利により、フランク王国はフリー海峡とラウエルス川以西を支配下に置きました。

カール大帝は772年にラウエルス川以東にも侵攻し、ザクセン戦争を経て、フリースラント全土を併合しました。しかし、フリース人の抵抗は終わりませんでした。

フリース人の抵抗と反乱

フランク人の支配下でも、フリース人は何度も反乱を起こしました。その背景には、キリスト教の布教への抵抗や、フランク人の支配への反発がありました。

聖ボニファティウスはフリースラントで布教活動を行いましたが、754年にフリース人戦士に殺害されました。また、782年から785年にかけて、ザクセン人と連携した大規模な反乱が起こり、カール大帝はこれを鎮圧しました。

最後の反乱は793年に発生しました。アヴァール人との戦争でフリース人の徴兵が行われたことが引き金となり、反乱はラウエルス川を越えて広がりましたが、すぐに鎮圧されました。この反乱をもって、およそ2世紀にわたるフリースラント・フランク戦争は終結しました。

この戦争は、フランク王国の拡大とフリースラントの併合という結果をもたらし、ヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。両国の文化や宗教の衝突、そしてフリース人の抵抗の物語は、中世ヨーロッパを知る上で重要な一端を担っています。

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