フリードリッヒ・アントン・ヴィルヘルム・ミクェル

フリードリッヒ・アントン・ヴィルヘルム・ミクェル：オランダ植民地時代の植物学を牽引した巨人

フリードリッヒ・アントン・ヴィルヘルム・ミクェル (Friedrich Anton Wilhelm Miquel, 1811年10月24日 - 1871年1月23日) は、19世紀のオランダを代表する植物学者です。彼は、主にオランダ領東インド（現在のインドネシア）の植物相解明に生涯を捧げ、その研究成果は現代の植物学に多大な影響を与え続けています。

医学から植物学へ転身

現在のドイツ領に属するノイエンハウスに生まれたミクェルは、フローニンゲン大学で医学を専攻し、1833年に博士号を取得しました。アムステルダムの病院で医師として勤務した後、1835年にはロッテルダムの医学校で医学を教えるようになりました。しかし、彼の真の情熱は植物学にありました。

オランダにおける植物学の中枢人物

1846年から1859年にかけてはアムステルダム大学で植物学教授を務め、その後はユトレヒト大学に移り、1871年に亡くなるまで同大学の教授職にありました。さらに、1862年にはライデンの王立標本館（現在のオランダ国立植物標本館）の館長に就任し、オランダにおける植物学研究の中枢を担う存在となりました。スウェーデン王立科学アカデミーの外国人会員にも選出されており、その学術的貢献は国際的に高く評価されていました。

膨大な研究成果と多様な貢献

ミクェルは、自ら海外への採集旅行に出かけることはありませんでしたが、オーストラリアやインドネシアなどから送られてきた膨大な植物標本を基に、精力的に研究を行いました。その成果は実に7,000を超える論文という形で結実しました。彼は、数多くの植物の新種や新属を記載し、植物分類学の体系化に大きく貢献しました。

彼の研究対象は多岐に渡り、単に植物の分類にとどまりませんでした。ハインリヒ・ゲッパート（Heinrich Göppert）との共同研究では古植物学にも取り組み、また、ファン・ブレダ（Jacob Gijsbertus Samuël van Breda）、ペーター・ハルティンク、スタリング（Winand Staring）らと共にオランダ最初の地質図の作成にも携わっています。

後進への育成と遺産

1871年、ミクェルは王立標本館館長の職をウィレム・フレデリック・ラインヤー・スリンガー (Willem Frederik Reinier Suringar) に譲りました。その際、彼はユトレヒト大学の植物学研究の発展のために基金を設立するなど、後進の育成にも尽力しました。

ミクェルの業績は、植物学に多大な貢献を果たしただけでなく、後世の研究者たちに大きな影響を与え続けました。イネ科の属名 Miquelia（現在は Garnotia のシノニム）は、彼の功績を称えて命名されたものです。彼の出版物、特に『Flora Indiae batavae』などは、現在でも重要な文献として参照され、オランダ領東インドの植物相を理解する上で欠かせない資料となっています。ミクェルは、まさに19世紀におけるオランダ植民地時代の植物学を代表する偉大な人物と言えるでしょう。

主要著作

Genera Cactearum, Rotterdam, 1839
Monographia Cycadearum, Utrecht, 1842
Systema Piperacearum, Rotterdam, 1843-1844
Illustrationes Piperacearum, Bonn, 1847
Cycadeae quaedam Americanae, partim novae. Amsterdam, 1851.
Flora Indiae batavae, Amsterdam, 1855-1859
Leerboek der Artensij-Gewassen, Utrecht, 1859
De Palmis Archipelagi Indici observationes novae. Amsterdam, 1868.

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