フリードリヒ・フーケ

フリードリヒ・ド・ラ・モット・フーケ

フリードリヒ・ド・ラ・モット・フーケ（Friedrich de la Motte Fouqué, 1777年2月12日 - 1843年1月23日）は、19世紀初頭のドイツで活躍した重要な文学者であり、初期ロマン主義の作家および詩人として知られています。一般にフーケあるいはフケーという家名で親しまれていますが、これは男爵位に基づくものであり、本名はフリードリヒ・ハインリヒ・カール・ド・ラ・モッテです。

彼の出自は、フランス北西部に位置するノルマンディー地方の由緒ある貴族家系に遡ります。1685年にフランス国王ルイ14世がナントの勅令を廃止したことにより、多くのプロテスタント（ユグノー）が国外へ逃れましたが、フーケ家の祖先もこの宗教迫害を避け、プロイセンへと亡命しました。その祖父はプロイセンの将軍として、当時の国王フリードリヒ2世（フリードリヒ大王）と深い親交を結んでいました。その特別な関係を示すように、フーケが生まれた際にはフリードリヒ大王自身が名付け親を務めたと伝えられています。また、父方の血筋にはノルウェー人の血が混ざっているという説もあります。

青年期、フーケは軍人の道を選び、プロイセン王国軍の将校として勤務しました。ラインラントへの遠征に従事した際、運命的な出会いを果たした女性と最初の結婚をします。しかし、この結婚生活は長くは続かず、数年後には離婚に至りました。その後、彼は当時の文学界で名を馳せていた年上の貴族未亡人、カロリーネ・フォン・ロホーと再婚しています。

軍務を離れた後、フーケは作家として本格的な活動を開始します。1811年に発表された中編小説『ウンディーネ』は、水辺に棲む精霊（水の精）と人間の騎士との間に繰り広げられる、美しくも哀しい恋愛物語であり、彼の名を不朽のものとしました。この作品には、最初の妻への複雑な感情が投影されているとも言われており、その叙情的で幻想的な筆致は、ドイツ国内で長く愛読される古典となりました。『ウンディーネ』以外にも、騎士道の精神を描いた『魔法の指輪』（1813年）や、冒険譚である『ジントラムの道連れ』（1814年）などを発表し、中世的なテーマや幻想的な要素を取り入れた作品は、後のファンタジー文学や冒険小説の先駆けとしても評価されています。

彼の代表作である『ウンディーネ』は、ドイツ文学の枠を超えて世界に広がり、フランスの著名な劇作家ジャン・ジロドゥによって翻案され、戯曲『オンディーヌ』として1939年に上演されるなど、後世の様々な芸術作品に影響を与えました。フリードリヒ・ド・ラ・モット・フーケは、ロマン主義文学の潮流の中で独自の幻想世界を築き上げ、多くの読者を魅了しましたが、1843年1月23日にベルリンでその生涯を閉じました。彼の作品は現在でも日本語訳が複数出版されており、時代を超えて読み継がれています。

もう一度検索