フリードリヒ・ヴィルヘルム・ピクシス

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ピクシスは、1785年3月12日にドイツのマンハイムで生まれ、1842年10月20日にこの世を去ったヴァイオリニストであり作曲家です。同名の父フリードリヒ・ヴィルヘルム（1755-1805）は、マンハイムで教師やオルガニストを務めていました。ピクシスは、まず父から音楽の手ほどきを受け、その後、ハインリヒ・リッターやイグナーツ・フレンツルに師事して研鑽を積みました。

数年間の修業を経て、彼は早くから公開の演奏会を開催し、その才能を示しました。弟のヨハン・ペーター・ピクシスがピアニストだったこともあり、父は1796年に二人の息子を伴い、演奏旅行に乗り出しました。彼らはドイツ国内はもちろん、デンマーク、ロシア、ポーランドといった国々を巡り、各地で演奏を披露しました。

特に1798年の春には、ピクシス兄弟はハンブルクで演奏会を開きました。この時、ハンブルク周辺を滞在していた高名なヴァイオリニスト、ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティの目に留まることになります。その結果、ピクシスは同年夏の間、父とともにシェーネフェルトに滞在し、ヴィオッティから無料でヴァイオリンのレッスンを受けるという貴重な機会を得ました。この集中的な指導を終えた後、兄弟は再びハンブルクのフランス劇場で演奏会を開催し、成長した姿を見せました。

1804年から1806年にかけては、故郷マンハイムの管弦楽団でヴァイオリン奏者として活動しました。父はその後ウィーンへ移住しますが、ピクシス兄弟は1805年秋にウィーンで、著名な音楽理論家であり作曲家であったヨハン・ゲオルク・アルブレヒツベルガーから作曲の指導を受けています。これにより、彼らの音楽家としての幅はさらに広がりました。1806年から1807年にかけてはプラハで、1807年10月にはライプツィヒの著名なゲヴァントハウス管弦楽団の舞台にソリストとして立ち、演奏家としての名声を確立していきました。

キャリアの重要な転換点となったのは、1811年にプラハへ移り住み、設立間もないプラハ音楽院にヴァイオリンの教授として迎え入れられたことです。彼はこの新しい音楽教育機関において、ヴァイオリン教育の中心的な役割を担い、多くの優秀なヴァイオリニストを育てました。ピクシスは、その功績から「プラハ・ヴァイオリン学校」の創設者としても知られています。彼の門下からは、息子であるテオドール・ピクシスをはじめ、モーリッツ・ミルトナー、ヤン・ヴァーツラフ・カリヴォダ、カール・フェルディナント・ヒュックスといった、後に著名となる音楽家が輩出されました。

音楽院での教育活動と並行して、ピクシスはプラハの音楽界全体の発展にも尽力しました。彼は劇場の管弦楽団や、音楽家協会の運営にも深く関与し、プラハの音楽水準の向上に大きく貢献しました。また、ボヘミア軍の大佐であったアルベルト・フォン・ノスティッツ＝リーネック伯爵のために、定期的に室内楽演奏会を企画・開催しました。ピクシス自身もこれらの演奏会でヴァイオリニストとして弦楽四重奏に参加しており、彼の率いる四重奏団は同時代の人々から最高の音楽的感興をもたらすと称賛されました。

作曲活動も行っており、自身が主宰した音楽アカデミーで自作曲を演奏することもあったようですが、残念ながら現存する作品は多くありません。確認されている作品としては、ヴァイオリンと管弦楽のためのコンチェルティーノ ニ長調や協奏曲、序曲、変奏曲のほか、弦楽四重奏曲 作品1 ニ長調、ソナタなどが挙げられます。このように、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ピクシスは、ヴァイオリニスト、教育者、作曲家、そして音楽組織の運営者として、特に19世紀初頭のプラハの音楽シーンにおいて、多方面にわたる重要な役割を果たした人物でした。

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