フルートソナタ (プーランク)

フランシス・プーランク（Francis Poulenc）のフルートソナタは、1956年から1957年にかけて書かれた室内楽曲です。プーランクの数ある作品の中でも特に知られた代表作であり、20世紀に作曲されたフルートソナタの中でも最高傑作の一つとして高く評価されています。

作曲の経緯

このソナタの構想は、プーランクが晩年のクロード・ドビュッシーが手がけた室内楽作品群に触発されたことに始まります。彼は1952年頃には既に、それぞれの木管楽器のためのソナタを作曲したいという考えを持っており、特にフルートとピアノのための作品のイメージを温めていました。しかし、ミラノ・スカラ座から委嘱されたオペラ『カルメル派修道女の対話』の作曲とオーケストレーションに追われる多忙な日々が続いたため、この構想はしばらく保留されることになります。

転機が訪れたのは1956年4月です。アメリカのエリザベス・クーリッジ財団から、同年秋に開催される室内楽音楽フェスティバルのための新作委嘱がプーランクに寄せられました。オペラ作業に没頭していた彼は、フェスティバル期日には間に合わないことを伝えた上で、代わりに翌1957年6月にストラスブール音楽祭で初演する作品を財団創設者であるクーリッジ夫人の追憶に捧げ、自筆譜をワシントンD.C.のアメリカ議会図書館に寄贈することを提案しました。この条件は財団側に受け入れられ、委嘱が成立しました。

こうして、プーランクは長年温めてきたフルートソナタの作曲に着手することを決意します。1956年12月に作曲を開始し、著名なフルート奏者ジャン＝ピエール・ランパルの助言なども受けながら作曲は進められ、1957年3月に完成に至りました。

完成したソナタは、予定通り1957年6月18日、ストラスブール音楽祭で初演されました。演奏は、フルートがジャン＝ピエール・ランパル、ピアノが作曲者自身のフランシス・プーランクという顔合わせでした。初演は大変な好評を博し、特に第2楽章は聴衆の熱狂に応えてアンコールされるほどでした。その後も、プーランクはピアニストとしてランパルを含む多くのフルート奏者と共演を重ね、この作品の普及に大きく貢献しました。

楽譜はイギリスのチェスター・ミュージック社から出版されています。また、同じ出版社からは、プーランクの友人でもあったイギリスの作曲家レノックス・バークリーが、ジェームズ・ゴールウェイの依頼を受けて1973年にピアノパートをオーケストラ用に編曲した楽譜も出版されており、管弦楽伴奏版としても演奏される機会があります。

楽曲の構成

このソナタは、全3楽章で構成されており、演奏時間は約12分から13分程度です。

第1楽章 アレグロ・マリンコリーコ（Allegro malincolico）

ホ（短）調。おおよそ三部形式を取り、4分の2拍子の主題は冒頭に現れる特徴的な4つの32分音符のシグナルによって強い印象を残します。中間部は4分の3拍子を基本とし、ピアノによる叙情的なソロに導かれ、フルートが対照的な、なだらかな旋律を歌い上げます。ちなみに、プーランクの自筆譜では当初速度指定が「アレグレット」でしたが、出版時に現在の「アレグロ」に変更されました。

第2楽章 カンティレーナ（Cantilena）

変ロ短調。速度記号は「アッセ・ラン（ごくゆっくりと）」、4分の4拍子で書かれています。フルートが奏でる深く感情に訴えかける歌が特徴的で、高雅な哀しみの情を湛えています。このソナタがプーランクの傑作としてしばしば演奏される理由の一つは、この楽章の持つ心に響く魅力にあると言えるでしょう。

第3楽章 プレスト・ジオコーソ（Presto giocoso）

イ長調。前の楽章とは一転して、陽気で活発なエネルギーに満ちた楽章です。4分の2拍子で、快活に進みますが、中間部では一時的に抒情的な表情も見せ、先行する楽章の主題を回想するかのような趣も現れます。華やかな終結部へと向かいます。

プーランクのフルートソナタは、その美しい旋律と洗練された構成により、今なお世界中のフルート奏者や音楽愛好家から愛され続けています。

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