フルートベール駅で

『フルートベール駅で』（Fruitvale Station）

本作は、2009年1月1日にアメリカ合衆国カリフォルニア州で発生した衝撃的な事件、22歳の青年オスカー・グラント三世が警察官に射殺された出来事を題材としたドラマ映画です。2013年に公開され、ライアン・クーグラーが監督を務め、マイケル・B・ジョーダンが主人公オスカーを演じました。

物語の軌跡

物語は、事件が発生した2009年元日の未明、フルートベール駅で警察官に取り押さえられるオスカーと友人たちの生々しい映像から幕を開けます。そして時間は遡り、事件前日のオスカーの日常が丹念に描かれます。彼は恋人との関係に問題を抱え、職も失い、手元にはわずかなマリファナしかありませんでした。生活苦からそれを売ることも考えますが、真っ当な生き方を志し、マリファナを海に捨てる決断をします。母親の誕生日を祝い、気分転換のためサンフランシスコでの年越しイベントに参加します。

悲劇の夜

年越しの花火を楽しんだ後、帰りの電車の中で、オスカーはかつて自身が働いていた食料品店の客であった女性に声をかけられます。しかし、オスカーの名前を聞いた別の乗客、過去に同じ刑務所にいた男性に突然襲われます。車内での乱闘騒ぎとなり、停車したフルートベール駅で鉄道警察隊が駆けつけ介入します。しかし、事態は収まるどころか混乱は深まり、状況判断を誤った警察官の一人が、取り押さえられていたオスカーを銃で撃ってしまいます。オスカーはすぐに病院へ搬送されますが、そのまま命を落としました。

事件の波紋とその後

オスカーの死は全米に大きな衝撃を与え、特に地元オークランドでは、事件への怒りから鉄道当局に対する激しい抗議行動が巻き起こり、一部は暴動へと発展しました。事件の一部始終は、偶然居合わせた人々によって携帯電話などで撮影されており、その映像は瞬く間に拡散され、事件の周知に大きく貢献しました。事件に関与した警察官は全員が職を解かれ、発砲した警察官は業務上過失致死罪で有罪となり、11ヶ月の禁固刑に服しました。事件から4年後の2013年元日には、オスカーを追悼する集会が開かれ、遺族である娘のタチアナも参加しました。

製作背景と撮影

ライアン・クーグラー監督は、事件発生当時に映画学校の大学院生であり、報道を通じて事件を知り、オスカーの最期の一日を映画化することを決意しました。監督は、「事件の状況だけでなく、オスカーという人間を知ってほしい、彼の命の意味を感じてほしい」という強い思いを持っていました。彼は遺族や友人、事件関係者への取材を重ね、信頼を得て脚本を執筆しました。主演には、脚本執筆以前からマイケル・B・ジョーダンを想定していたといいます。オクタヴィア・スペンサーはオスカーの母親役を演じ、自ら資金援助も行いました。撮影は主にオークランドで20日間にわたって行われ、事件現場となったフルートベール駅や、オスカーが服役していたサン・クエンティン州立刑務所でもロケが行われました。本作では、実際の事件発生時に目撃者が撮影した映像が効果的に使用されています。監督は当初使用に反対しましたが、「多くの人に事件の現実を知ってもらう責任がある」と考え直し、使用を決断しました。

公開と評価

本作は2013年のサンダンス映画祭でプレミア上映され、絶賛されました。その質の高さから配給権を巡る争奪戦が繰り広げられ、ワインスタイン・カンパニーが獲得しました。同年のカンヌ国際映画祭でも高い評価を得て受賞しています。同年7月12日にアメリカで限定公開され、週末興行収入ランキングで健闘しました。批評家からも広く称賛され、映画批評サイトRotten Tomatoesでは94%の支持率、Metacriticでは85/100のスコアを獲得しました。多くの評論家が、マイケル・B・ジョーダン、オクタヴィア・スペンサーら主要キャストの演技を高く評価し、「感動的でパワフルな作品」と評しました。本作は、社会的な不正義に対する問いかけとして、多くの人々に受け止められました。

キャスト（主要）

マイケル・B・ジョーダン（オスカー・グラント三世）
オクタヴィア・スペンサー（ワンダ・ジョンソン）
メロニー・ディアス（ソフィア・メサ）
アーナ・オライリー（ケイティ）

本作は、一人の青年の命が不条理に失われた悲劇を通じて、人種、貧困、警察の暴力といった現代アメリカ社会が抱える深刻な問題に光を当てています。

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