フレンチ・コップス

フレンチ・コップス（Les Ripoux）は、1984年にフランスで製作・公開された犯罪コメディ映画です。クロード・ジディが監督・脚本を務め、名優フィリップ・ノワレと人気俳優ティエリー・レルミットが主演を務めました。パリを舞台に、全く異なるタイプの二人の刑事が繰り広げる騒動と、その関係性の変化を描き、警察内の腐敗というテーマを扱いながらも、軽妙でユーモラスなタッチで描かれているのが特徴です。

本作のユニークな原題「Les Ripoux」は、フランス語で「堕落したもの」あるいは「腐敗したもの」という意味を持ちます。これは、フランスの若者などが使うスラングであるverlan（倒語）の一種で、「腐った」を意味する「pourris」の音節を逆さまにして作られた言葉です。このタイトル自体が、物語の中心である警察官の腐敗を示唆しており、作品の内容を的確に表しています。

物語は、パリ警視庁のベテラン刑事であるルネ・ボワロンを中心に展開します。彼は競馬好きで、職権を利用した小規模な不正や賄賂の受け取りを常態化させている、典型的な「悪徳警官」です。そんなルネの元へ、警察学校を優秀な成績で卒業したばかりの、正義感が強く理想に燃える青年、フランソワ・レスビュシュが新しい相棒として配属されます。

真面目なフランソワは、ルネの違法行為やダーティーな手法を目の当たりにし、強く反発します。情報屋に金を払ったり、犯罪を見逃す見返りに利益を得たりするルネのやり方は、フランソワの考える「正義」とはかけ離れていました。二人は度々衝突しますが、ルネは長年の経験に基づいた知恵と、したたかな人間性でフランソワを手玉に取ろうとします。

そして、ルネはフランソワを自身の世界に引き込むための決定的な一手に出ます。それは、ルネが顔見知りの娼婦ナターシャをフランソワに紹介することでした。孤独感を抱えていたフランソワは、ナターシャの魅力に惹かれ、急速に関係を深めていきます。この関係を維持するため、あるいはルネの手引きによって、フランソワは次第に警察官としての倫理的な一線を越え始めます。彼はかつては軽蔑していた不正行為に手を染めるようになり、理想主義者だった彼は徐々に「堕落」していくのです。ルネとフランソワの関係は、当初の反目から、奇妙な共犯関係へと変化していきます。

本作は、警察の腐敗というシリアスなテーマを扱いながらも、コメディとして成立させている点が大きな魅力です。ルネの図太さと飄々としたキャラクター、そしてフランソワの真面目さから悪への変化がユーモラスに描かれます。主演のフィリップ・ノワレとティエリー・レルミットの見事な演技も、キャラクターの魅力を引き出しています。

批評的にも高く評価され、本作は1985年のセザール賞において、最も栄誉ある最優秀作品賞を受賞しました。さらに、クロード・ジディは最優秀監督賞を、ニコール・ソーニエは最優秀編集賞を受賞しています。フィリップ・ノワレは主演男優賞に、クロード・ジディはオリジナル脚本賞にノミネートされました。この成功を受けて、本作はシリーズ化され、続編も製作されています。

主要なキャストには、ルネ・ボワロン役のフィリップ・ノワレ、フランソワ・レスビュシュ役のティエリー・レルミットのほか、ナターシャ役のグラース・ド・カピターニ、ブローレ署長役のジュリアン・ギオマールなどが名を連ねています。
スタッフは、監督・脚本をクロード・ジディ、製作をピエール・ゴーシェ、撮影をジャン＝ジャック・タルベ、音楽をフランシス・レイが担当しました。本作は日本でも公開され、テレビ放送時には日本語吹替版も制作されています。

『フレンチ・コップス』は、フレンチコメディならではの軽快さと、人間の弱さや社会の不条理を描く洞察力を兼ね備えた作品であり、その質の高さから今も多くの映画ファンに支持されています。

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