フロリダブランカ伯爵の肖像 (スペイン銀行)

フランシスコ・デ・ゴヤの名作『フロリダブランカ伯爵の肖像』

『フロリダブランカ伯爵の肖像』は、スペインのロマン主義を代表する画家フランシスコ・デ・ゴヤが1783年に手掛けた肖像画であり、当時の権力者である初代フロリダブランカ伯爵ホセ・モニーノ・イ・レドンドを描いたものです。この作品は、伯爵が国王カルロス3世の宰相として権力の絶頂にあった時期を背景にしています。ゴヤにとっては、公式に描かれた初の肖像画であり、画面には国王の肖像も登場するなど、歴史的な重要性を持つとともに、自身の芸術的評価を高めるきっかけともなりました。

ホセ・モニーノ・イ・レドンドについて

ホセ・モニーノは1728年にムルシアで生まれ、法律の博士課程を経て1748年にマドリードへと移ります。彼はその優れた法的知識とスキルを元に、政界での地位を確立しました。1763年には王室の裁判官に任命され、その後カスティーリャ王室の検察官、さらには宰相として重要な役割を果たしました。特に、イエズス会の解散を支援した彼の功績は、初代フロリダブランカ伯爵の称号を受ける契機となりました。

また、彼はアメリカ独立戦争における中立政策の難しさや、サン・カルロス国立銀行の設立など、当時の多くの重要な政策に関与していました。彼の影響力は非常に大きく、さまざまな公共事業や水利プロジェクトの実現にも尽力しました。しかし、1787年には権力を失い、その後のナポレオンの侵攻などの混乱の中で1808年に享年81で世を去りました。

制作の背景と意義

ゴヤがこの肖像画を描くに至った経緯は特異です。伯爵からの依頼は内密に行われ、特別な理由があったと推測されています。この肖像画は伯爵が自身の業績を周囲に知られたくない何らかの理由から、慎重に依頼したものでした。そして、この作品が完成することで、ゴヤは当時の貴族社会へ本格的に足を踏み入れる一歩を踏み出します。

初期のキャリア段階にあったゴヤは、伯爵との関係を通じて、以降の重要な顧客とも接触を持つようになります。特に、後にデ・ボルボーン親王とも関係を築くことになり、彼の後援を受けてさらなる飛躍を果たすこととなります。

作品の構成と表現

【フロリダブランカ伯爵の肖像】は、伯爵の威厳と知的な姿勢を巧みに表現しています。画面の中央に立つ彼は、赤いフォーマルスーツで装い、右手に眼鏡を持ちながら、肩には勲章を掛けています。姿勢や眼差しからは、彼の聡明さと自己確信が感じられ、観る者に対して強いインパクトを与えます。

また、背景には国王カルロス3世の肖像が描かれ、政治的な権威が感じられます。右奥のテーブルには公共プロジェクトの図面が広げられ、そこには水利プロジェクトに関わる重要な設計図も含まれています。さらには、自身を描いたゴヤの肖像が左端に配され、伯爵の芸術への支援を暗示している点も見逃せません。

テーブルの上には多くの象徴が隠されています。大きな時計は伯爵の整然とした日常を表し、周囲には彼が日々職務を全うしている様子が象徴的に描かれています。この時計は、時間の経過と彼の公務に対する真剣な姿勢を象徴しています。さらに、画面には伯爵の足もとに置かれた書物があり、彼の学識と悟りを示す重要な細部となっています。

来歴と影響

伯爵は子供がいなかったことから、彼の肖像画はその死後に兄弟に相続され、その後金融機関を経て、現在はスペイン銀行に所蔵されています。また、プラド美術館にはこの作品の別のバージョンも収蔵されており、あわせて見ることでゴヤ自身のスタイルの変貌や、当時の政治的背景にも触れることができるでしょう。

この作品を通じて、ゴヤは権力者の肖像を描くことで、政治と芸術がいかに交錯し合うのかを見事に表現しています。フロリダブランカ伯爵の肖像は、彼自身の名声を高めるだけでなく、ゴヤの画家としての地位向上にもつながる重要な作品であり、その後のスペイン美術においても影響を与え続けることでしょう。

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