フードクレストマーク

フードクレストマーク：自動車を飾る立体的なシンボル

自動車のフロントグリルやボンネットに装着される立体的な装飾品、それがフードクレストマークです。単なるエンブレムとは異なり、三次元的に制作され、車両のシンボルを誇張して表現することで、高級感や個性を際立たせます。オーナメントと呼ばれる場合もありますが、平面的なエンブレムも含むため、区別が必要です。

平面的なエンブレムとの違いと役割

一般的な自動車のエンブレムは、平面的なデザインで車体に取り付けられます。そのため、室内からは確認できません。しかし、フードクレストマークは、フロント中央に配置されるため、ドライバーはもちろん、周囲からも容易に識別可能です。

その役割は、単なるブランドの象徴だけではありません。特に大型高級車やショーファードリブンカーにおいては、運転席からの車幅感覚の把握が難しい場合があります。そこで、フェンダーポール（またはフェンダーミラー）と併用することで、フロントの先端位置と左右フェンダーの距離を把握しやすくし、安全運転を支援する役割も担います。運転手が変わる場合や、複数の車を運転する場合にも、このマークは重要な視覚的指標となります。教習車においても、教習生の視覚的補助としてオプション設定されているケースがあります。

搭載車種と歴史

フードクレストマークは、かつては高級車や、第二次世界大戦以前の自動車に多く見られました。ロールスロイス、ベントレーといった伝統的な高級車ブランドはもちろん、トヨタセンチュリー、クラウンマジェスタ（170型）、メルセデス・ベンツSクラスといったモデルにも採用されています。日産セドリック、グロリア、ローレル、三菱プラウディア、デボネア、キャデラック、第一汽車紅旗、光岡ガリュー、さらには、旧型車であるトヨペットクラウンやダットサン、トヨダAA型にも見ることができます。ジャガーXJにもかつては搭載されていましたが、現在は廃止されています。

興味深いのは、クラウンマジェスタのフードクレストマークを、他のクラウンシリーズに装着して視認性を高めるオーナーもいる点です。これは、フードクレストマークが単なる装飾ではなく、機能性も併せ持つことを示しています。

近年の減少傾向と安全性の観点

近年、フードクレストマークは減少傾向にあります。歩行者保護の観点から、事故発生時に可倒式にする設計が採用されたり、あるいは完全に廃止され、平面的なエンブレムに変更されるケースが増えています。4代目日産シーマのマイナーチェンジなどがその例です。また、メルセデス・ベンツでは、SクラスとEクラスを除く多くの車種で、フードクレストマークからフロントグリル内のエンブレムに変更されています。クーペモデルでは、古くからフロントグリルにエンブレムが装着される「クーペグリル」というデザインが用いられてきました。

フードクレストマークは、自動車の歴史と文化を象徴する存在であり、高級感や個性を演出する重要な要素でした。しかし、安全性の向上やデザインのトレンドの変化に伴い、その数は減少しています。それでも、多くの愛好家にとって、フードクレストマークは、憧れと風格を象徴する特別な存在であり続けるでしょう。

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